「――香、満ちました」


 私、櫻月(さくらつき)紗梛(さな)は綸子生地に青の橘と菊、梅の模様のくすんだ水色の着物を着て礼をし挨拶をした。
 参加してくださった方に来てくださったお礼を伝えながらお見送りをする。


「ありがとうございました」

「今日の“春雪(しゅんせつ)香”とても良かったわ。さすが、(あや)さんね」

「ありがとうございます、次は梅雨頃に開催する予定なのでその時に招待状を書きますね」


 皆が帰って行き、お片付けに戻ろうと屋敷に入る。先ほどまで香席をしていた部屋の片付けをして香間を出る。
 すると、何か懐かしい香りがした。外ではお香は焚いていないし香間からも離れているためその香りの元が分からずキョロキョロする。


「勘違い、か」


 そう独り言を呟いて自室に戻ろうとした時、後ろから声をかけられる。


「……君は、櫻月紗梛か?」


 私の名を呼んだ男性は、とても麗しく美しい人だったけど……何故、私の名を呼ぶのだろうか。今の私は“綾”なのに。