「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ」」
「今日は誰のお通夜だ?」
グランドの端、日陰にはいつもの四人がシートに座っていた。
それぞれお弁当を広げ食べようとしている時、真理と一華が体中にある空気をすべて吐き出す勢いの大きなため息を吐いていた。
隣に座りレモン飴を舐めている優輝が、口の中でコロコロと飴を転がしながら二人を見下ろしている。
「先ほどの試合は惜しかったですね。でも、いい勝負だったかと思いますよ」
「そうそう、いい勝負だったぞ。最後に慌てすぎた一華が何故か敵にパスしたり、糸桐がボールを投げようとしたときに足を滑らせボールを離してしまって当てられただけだろ。よくある事だ、気にすんな」
「「うっ」」
優輝の言葉で傷に塩を塗られた二人は、唸り声をあげその場に溶けるように倒れ込んだ。
「あぁ、指を詰めればいいのかな。それか、爪をはげばいいのかな」
「私は何をすればいいのかな。死なないと許されない?」
「お前らってこんなにネガティブだったか? 特に糸桐、お前いつも元気いっぱいじゃねぇか。その元気どこ行った?」
「ボールと共にどこかに転がっていきました」
落ち込んでいる二人を見て、残された優輝と曄途はどうすればいいか首を傾げた。
「こういう時の対処法、俺知らねぇんだよなぁ。お前、何かいい方法ないか?」
「それを本人達の前で堂々と話せるの、本当にすごいですよね…………」
「隠しても意味はないからな」
「はぁ…………」
ため息を吐きどうにか出来ないか考えていると、四人に二人の影が近づいていった。
「曄途お坊ちゃま、こんな所で何をしているのですか」
慌てた様子で声をかけてきたのは、校門で黒いワゴン車の中から降りてきた一人のおじいさん。
燕尾服を身に纏い、白いあごひげを撫で、シートに座っている曄途を見下ろす。その隣には、若いメイドの服を着ている女性。鋭い瞳で曄途の周りにいる一華達を見回した。
メイドが正しい姿勢のままシートに座る曄途の前まで歩き、目を合わせるためにしゃがむ。肩に優しく手を添えると、憐れむような瞳を浮かべ彼を見た。
「あぁ、お労しい。お坊ちゃま、貴方は優しすぎるのです。このような底辺家庭の人達と共にお食事など。貴方は、主である父上様が経営する白野株式会社の時期社長。このような底辺な人物達と無理に関わっては、お坊ちゃまの気品が下がります。さぁ、こちらへ。このような礼儀のなっていない方達とのお食事より、我々の準備しましたお弁当をご一緒に食べましょう? お坊ちゃまの気品に関わります」
「さぁ、さぁ」と、笑顔で無理やり曄途を立たせ歩かせる。
彼の背中を押しているメイドの言葉に怒りが芽生えた真理が頬を膨らませ、立ち上がった。
「ちょっと、今の言葉はないんじゃないですか? それに、白野君が嫌がっているように見えるのですが?」
「あぁら、お坊ちゃまと共にお食事をして強気になっておられるのでしょうか。では、可哀想なので真実を教えてあげますよ。お坊ちゃまと共にお食事をできたのは、お坊ちゃまの優しさですよ? 本当でしたら貴方のような貧乏な底辺が、お坊ちゃまと共に行動できるだけで拝み、慕うのです。普段はお坊ちゃまのような高貴な方と話す事すら出来ない底辺貧乏なんですよ? 貴方達」
「こんのっ!!!」
「おーほほほ」と高笑いを上げるメイドに怒り心頭、殴りかかる勢いで真理は拳を握った。
隣では、どうすればいいのかわからずメイドと真理を交互に見る一華の姿。
「真理、待って。さすがに喧嘩は駄目だよ」
「でも!! あの人がっ!」
指を指し、抑えきれない怒りをぶつけようとした時、燕尾服を着ているおじいさんが咳払いをした。
「椿、そこまでにしなさい」
「ひっ、す、すいません…………」
怒気の含まれている声に肩を大きく震わせ、椿と呼ばれたメイドが顔を青くし静かになった。
「大変申し訳ありません。まだ雇いたてのメイドでして、自身の立場を過大評価している節があるのです。どうか、お許しください」
「い、いえ…………」
真理は目の前で腰を折り謝罪したおじいさんに戸惑いつつも頷くが、まだ怒りが完全に落ち着いておらず不機嫌そうな顔を浮かべる。
「ですが、一つだけお伝えさせていただいてもよろしいでしょうか」
「は、はい。なんでようか」
「今後、曄途おぼちゃまとの交流は避けていただきたいのです。お願いできますね?」
身長が高く、おじいさんとは思えない眼光で見下ろされ、二人は見上げながら足をすくませる。
納得できるお願い事ではないため、簡単には頷きたくない。でも、目の前から注がれる圧のある視線に断る事も出来ない。
お互い身を寄せ合い震えていると、おじいさんが二人を説得させるため言葉を続けた。
「曄途お坊ちゃまは貴方達とは違う生活を送っております。合わない相手とご一緒するのは大変でしょう。無理を
せず、貴方達は自身と同じレベルの方とお付き合いくださいませ」
再度腰を浅く折り言うおじいさんに、二人は顔を見合せる。
眉間に皺を寄せ、文句を口にしようとするが、それは叶わない。顔を上げた相手からの圧に気後れし、真理は思わず逃げるように後ろへと一歩、足を下げてしまう。
一華は顔を少しだけ横にそらし、後ろに立っている曄途を見た。
彼の表情は”無”そのもの。喜んでいるわけではなく、落ち込んでいる訳でも、怒っているわけでもない。
何も考えないように、怒りが芽生えないように、感情が動かないように。
ただひたすらに無を貫く曄途の姿。
彼を見た後、今度は曄途を見た。
彼は歯を食いしばり、ただ顔を俯かせる。悔しそうに歪められた顔を横から見て、恐怖より怒りが強く芽生え、一華は拳を握り口を大きく開いた。
「それは、白野君が望んでいる事なのでしょうか?」
「今日は誰のお通夜だ?」
グランドの端、日陰にはいつもの四人がシートに座っていた。
それぞれお弁当を広げ食べようとしている時、真理と一華が体中にある空気をすべて吐き出す勢いの大きなため息を吐いていた。
隣に座りレモン飴を舐めている優輝が、口の中でコロコロと飴を転がしながら二人を見下ろしている。
「先ほどの試合は惜しかったですね。でも、いい勝負だったかと思いますよ」
「そうそう、いい勝負だったぞ。最後に慌てすぎた一華が何故か敵にパスしたり、糸桐がボールを投げようとしたときに足を滑らせボールを離してしまって当てられただけだろ。よくある事だ、気にすんな」
「「うっ」」
優輝の言葉で傷に塩を塗られた二人は、唸り声をあげその場に溶けるように倒れ込んだ。
「あぁ、指を詰めればいいのかな。それか、爪をはげばいいのかな」
「私は何をすればいいのかな。死なないと許されない?」
「お前らってこんなにネガティブだったか? 特に糸桐、お前いつも元気いっぱいじゃねぇか。その元気どこ行った?」
「ボールと共にどこかに転がっていきました」
落ち込んでいる二人を見て、残された優輝と曄途はどうすればいいか首を傾げた。
「こういう時の対処法、俺知らねぇんだよなぁ。お前、何かいい方法ないか?」
「それを本人達の前で堂々と話せるの、本当にすごいですよね…………」
「隠しても意味はないからな」
「はぁ…………」
ため息を吐きどうにか出来ないか考えていると、四人に二人の影が近づいていった。
「曄途お坊ちゃま、こんな所で何をしているのですか」
慌てた様子で声をかけてきたのは、校門で黒いワゴン車の中から降りてきた一人のおじいさん。
燕尾服を身に纏い、白いあごひげを撫で、シートに座っている曄途を見下ろす。その隣には、若いメイドの服を着ている女性。鋭い瞳で曄途の周りにいる一華達を見回した。
メイドが正しい姿勢のままシートに座る曄途の前まで歩き、目を合わせるためにしゃがむ。肩に優しく手を添えると、憐れむような瞳を浮かべ彼を見た。
「あぁ、お労しい。お坊ちゃま、貴方は優しすぎるのです。このような底辺家庭の人達と共にお食事など。貴方は、主である父上様が経営する白野株式会社の時期社長。このような底辺な人物達と無理に関わっては、お坊ちゃまの気品が下がります。さぁ、こちらへ。このような礼儀のなっていない方達とのお食事より、我々の準備しましたお弁当をご一緒に食べましょう? お坊ちゃまの気品に関わります」
「さぁ、さぁ」と、笑顔で無理やり曄途を立たせ歩かせる。
彼の背中を押しているメイドの言葉に怒りが芽生えた真理が頬を膨らませ、立ち上がった。
「ちょっと、今の言葉はないんじゃないですか? それに、白野君が嫌がっているように見えるのですが?」
「あぁら、お坊ちゃまと共にお食事をして強気になっておられるのでしょうか。では、可哀想なので真実を教えてあげますよ。お坊ちゃまと共にお食事をできたのは、お坊ちゃまの優しさですよ? 本当でしたら貴方のような貧乏な底辺が、お坊ちゃまと共に行動できるだけで拝み、慕うのです。普段はお坊ちゃまのような高貴な方と話す事すら出来ない底辺貧乏なんですよ? 貴方達」
「こんのっ!!!」
「おーほほほ」と高笑いを上げるメイドに怒り心頭、殴りかかる勢いで真理は拳を握った。
隣では、どうすればいいのかわからずメイドと真理を交互に見る一華の姿。
「真理、待って。さすがに喧嘩は駄目だよ」
「でも!! あの人がっ!」
指を指し、抑えきれない怒りをぶつけようとした時、燕尾服を着ているおじいさんが咳払いをした。
「椿、そこまでにしなさい」
「ひっ、す、すいません…………」
怒気の含まれている声に肩を大きく震わせ、椿と呼ばれたメイドが顔を青くし静かになった。
「大変申し訳ありません。まだ雇いたてのメイドでして、自身の立場を過大評価している節があるのです。どうか、お許しください」
「い、いえ…………」
真理は目の前で腰を折り謝罪したおじいさんに戸惑いつつも頷くが、まだ怒りが完全に落ち着いておらず不機嫌そうな顔を浮かべる。
「ですが、一つだけお伝えさせていただいてもよろしいでしょうか」
「は、はい。なんでようか」
「今後、曄途おぼちゃまとの交流は避けていただきたいのです。お願いできますね?」
身長が高く、おじいさんとは思えない眼光で見下ろされ、二人は見上げながら足をすくませる。
納得できるお願い事ではないため、簡単には頷きたくない。でも、目の前から注がれる圧のある視線に断る事も出来ない。
お互い身を寄せ合い震えていると、おじいさんが二人を説得させるため言葉を続けた。
「曄途お坊ちゃまは貴方達とは違う生活を送っております。合わない相手とご一緒するのは大変でしょう。無理を
せず、貴方達は自身と同じレベルの方とお付き合いくださいませ」
再度腰を浅く折り言うおじいさんに、二人は顔を見合せる。
眉間に皺を寄せ、文句を口にしようとするが、それは叶わない。顔を上げた相手からの圧に気後れし、真理は思わず逃げるように後ろへと一歩、足を下げてしまう。
一華は顔を少しだけ横にそらし、後ろに立っている曄途を見た。
彼の表情は”無”そのもの。喜んでいるわけではなく、落ち込んでいる訳でも、怒っているわけでもない。
何も考えないように、怒りが芽生えないように、感情が動かないように。
ただひたすらに無を貫く曄途の姿。
彼を見た後、今度は曄途を見た。
彼は歯を食いしばり、ただ顔を俯かせる。悔しそうに歪められた顔を横から見て、恐怖より怒りが強く芽生え、一華は拳を握り口を大きく開いた。
「それは、白野君が望んでいる事なのでしょうか?」