伍幕 光明の破魔
「お出かけ、ですか?」
トメの事件から慌ただしく七日ほど経った頃──。
絃にとっては、青天の霹靂にも等しいことが起きた。お鈴と共に朝餉の準備をしていたら、そこへ顔を出した士琉から外出に誘われたのだ。
昨夜、久しぶりに休みが取れたと報告を受けてはいたけれど、まさか絃と出かけたいと言われるとは予想していなかった。
思わず言葉を繰り返してしまいながら、絃は戸惑いを呑み込む。
「前々から考えてはいたんだ。絃は実家での生活で慣れているのだとしても、やはりずっと屋敷にこもっていては息が詰まるだろう? せっかく月華に来たのだし、こちらの文化に触れてみるのもいいのではないかと思ってな」
「あの、でも、わたしはこの体質ですし……。外出するのは、あまり」
「千桔梗からこちらへ来たときに使っていた護符はまだあるな? 不安ならあれを貼っておくといい。まあ、昼間ならそう心配はいらんと思うが」
確かに護符は残っている。
けれど、やはり結界の外に出るのは勇気がいるのだ。
妖魔が発生しやすくなるのは、陰の気が強まる日が沈んでからの時間帯。
とはいえ、日中でもまったく現れないわけではないのである。
闇が深まれば深まるほどに力を増すモノたちゆえ、力が弱くなる日中は息を潜め、夜になると活発に動き出す傾向にあるというだけで。
「軍都は妖魔に対峙する者がごまんといる場所だ。仮に妖魔が現れてもすぐに討伐班が駆けつけるし、そもそも俺がそばにいる。君には傷ひとつつけさせやしない」
「士琉さま……」
「まあ、それでもやはり嫌なら今日は屋敷でゆっくりしよう。俺は絃と過ごせるならどちらでも構わないしな。──さて、どうする?」
正直なところ、気乗りはしなかった。