ひとりは嫌だと。

 自分もあちら側に逝きたいと。

 なにかに、誰かに懇願するように、ただただ泣いていた。

 その涙が、痛かった。

 ひとりぼっちの淋しさを知っていたから。

 ヘマをして怪我を負った手の甲の傷よりも、痛くて。痛くて。

 だから、士琉は決めたのだ。

『……きっと、今すぐは難しい。だから、俺がもっと強くなって、〝いと〟の人生を丸ごと守れるようになるまで待っててくれ。いつか、必ず』

『かなら、ず……?』

 そう、そのときが来たら。

『いつか必ず、君を迎えに行く』

 ──それから月日は流れ十年が経ち、現在(いま)がある。

 幼い少女だった彼女は、まるで夜闇に咲く美しい千桔梗のように成長した。どうやら〝いと〟はあの日のことを憶えていないようだが、それでも構わなかった。

 士琉は、憶えているから。
 あの日、彼女に対して抱いた想いは、消えていないから。

(叶うなら、俺は君と一緒に生きていきたい)

 いまだに死にたいと、消えてしまいたいと思っているらしい絃が、はたしてどうしたら自ら生きたいと願ってくれるのか、士琉はわからない。
 けれど、幸いにも手の届く場所にやってきてくれた。
 ならばまずは、己のすべてを賭けて愛し抜こう。

 愛して、愛して。

 自分が愛されていることを受け入れざるを得ないくらいに、愛し尽くして。

 そして、ひとりぼっちになることを諦めてもらおう。

 そのためなら、なんだってやってやる。


(だから、どうか。……俺の前で死にたいなんて思わないでくれ、絃)