絃のなかで、生の感覚はいつしか消えていた。
 自分が呼吸しているのかさえわからない。ただぼんやりと、時間そのものが止まってしまったのかと思った。
 だって、なんの音もしなくなったから。けれど、そんなこと、もうどうでもいいような気がした。そうだ。このまま消えてなくなるなら、きっとその方がいい。

 なのに、突然、闇を打ち破るように凛と透き通った声が響いた。

 戻ってこい、と。知らない声だった。

 それになんと答えたかはわからない。答えなかったのかもしれない。
 なんとなく、ひとこと、ふたこと、会話をしたようなしなかったような。
 たぶん、ひどく疲れていたのだ。
 眠る寸前のように、感覚のすべてが曖昧(あいまい)だった。
 されども、最後に届いたその言葉だけは、限りなく脳裏に焼きついた。

 その声の主は、絃を抱き寄せ、言ったのだ。


「いつか必ず、迎えに行く」


 ──と。