不思議と、そう訊かれるような気がしていたのだ。

「今はもう、怖いとは思いません」

「無理はしていないな?」

「はい。もちろん日々のなかには、恐ろしいことも、目を背けたくなるようなこともありますけれど……。少なくとも、もうこの夜に囚われたまま消えてしまうのではないかと怯えることはなくなりましたから」

 ──それに、と愛しい人と視線を絡み合わせながら、絃は微笑む。

「これからは、士琉さまが生きる刻に、わたしも生きていくことになるでしょう?」

「っ……そうだな」

 月代に生まれたのに、夜に生きることを拒まれた。
 その虚しさを、哀しさを、忘れることはできない。
 けれど、絃はもうひとりではないから。


「俺と結婚してくれるか、絃」

「はい、士琉さま。よろこんで」


 (やわ)く、青く。月明かりの下、手を繋ぐ。
 そうして誓い交わした口づけを見ている者は、誰もいない。

 願わくは、いつまでも。願わくは、永遠に。
 幸せな未来を描いて、想いを馳せる。

 ふたりきり、千桔梗の光に包まれながら。


 
 ──桔梗 花言葉 『永遠の愛』/『変わらぬ愛』



【完】