昇降口で上履きに履き替え、まず向かったのは職員室。
ノックを挟んで中に入ると、豊かなコーヒーの香りが鼻の奥をするりと抜けていく。
「おはようございます、友林先生」
書類とにらめっこしていた友林先生の机に近寄る。
挨拶された当人は目を瞠って口をぽかんとあけた。
「佐山!? お前、体はもう問題ないのか?」
立ち上がる勢いで腰を浮かせた友林先生に、私は頷いた。
「はい、体はもう大丈夫です。昨日は本当に、お騒がせしました」
「いや、それはいいんだ。良くなったなら何よりだよ」
私が改めてお詫びを入れたあと、友林先生は神妙な顔つきでこちらを見据える。
なんとなく、この先の流れを察した。
「佐山、少し聞いても構わないか?」
「はい」
「昨日みたいなことは、日常茶飯事だったりするのか? 正直、かなり驚いたんだ。佐山の事情は知っていたつもりなんだけどな、まさか倒れて病院に運ばれるまでとは思っていなかった」
尋ねながら先生は、机上に置かれた不気味なご当地ゆるキャラペンを右手に取って器用に回している。
気まずさからの行動かとも思ったけれど、そういえば教卓に立っているときにも何度か見た仕草だ。癖なのかもしれない。
だけど、先生が驚いて当然だ。まさか私も倒れるとは思っていなかったので、まだ戸惑っている部分もあるから。