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意識が浮上していく感覚に、身をよじる。
「ん……」
私は眉間に力を込めながらまぶたを開いた。
ちょうど真上にあった天井の照明がまぶしくて、きゅっと目をすぼめてしまう。
「姉貴!」
「晴、太……?」
ガタッと物音がして、ぼんやりとしていた視界は晴太の顔で埋め尽くされる。
今朝と変わらない制服姿の晴太。その瞳が弱々しく震えていた。
「……えっと」
覚醒しきれていない頭で考える。
たしか私は学校にいて、雨が降ってきて、保健室に駆け込んで、それから――そう、倒れたんだ。
「あああ……」
順序立てて思い出した私は、やってしまったと、顔を両手で覆い隠す。
すると、左腕に繋がれていた点滴が、カシャンと音をたてて動いた。
「姉貴、どうした? 頭痛いのか?」
「違う、違うの。ただ、ごめん……晴太。また迷惑かけちゃった」
不甲斐なくてたまらない。しばらく気を失うほどの事態になったことはなかったのに。
「なに言ってんだよ、姉貴。迷惑とか、そんなの今はどうでもいいんだよ。体の方はなんともないんだよな?」
怒った口調で晴太が言う。
私は顔から両手をのけて、晴太の顔を見つめた。
「……うん、大丈夫。もう苦しくないよ。ありがとう」
「そっか」
晴太は安堵の息をこぼして、ほのかに表情をゆるめた。
「ここ、病院だよね? 私は倒れたあと、どうなったの?」
「校門で待ってた母さんの車で病院に向かったんだよ。救急車を呼ぶよりかは早いって。俺はあとから知って、さっきチャリでついたばっかり」
晴太の話によると、私は保健室で意識を失ったあと、母の車に乗せられたらしい。
担任の友林先生も付き添ってくれていたようだけど、私が目覚める前に学校に戻ったという。
意識はなかったはずなのに、うっすらと運ばれていた記憶がある。友林先生が運んでくれたということだろうか。
だけど、なにか忘れているような……。
頭に霧がかったような違和感。しかしなかなか思い出すことができなかった。