なんで霞湖ちゃんの披露目なんて話になるんだよ!
俺が泡食っていると、霞湖ちゃんはぱちぱちと瞬いていた。
「えっ、司さんと大和さんは、私のこと反対しないんですかっ?」
俺からの拒絶を聞いている霞湖ちゃんが驚いたように声をあげる。
そして霞湖ちゃんは二人のことそう呼ぶんだ。
もしかして年上だと思ってる? あとで教えておこう。
國陽が肯定の意味だろう、軽く頭を上下させた。
「たしかにこのまま放っておけば、優大は家の決めた許嫁が出来る。だが幸い、斎月のおかげで優大には性急に許嫁を置くことはなかった。決まる前に優大の恋人が現れれば、当主権限で他の許嫁候補より上位に置ける。そして優大の家族がそれに反対しなければほぼ内定、ということです」
え、えー……確かに斎月のおかげ? で、俺にはすぐに許嫁は置かれなかったし、今も即刻必要、というわけではないけど……。
斎月は男系の大和家に数十年ぶりに生まれた女児で、司家と同じく開闢(かいびゃく)の瞬間から存在している一族だ。
希少である大和家の姫を、司は花嫁に迎え入れたかった。
斎月の前に生まれた女性は、司家とは縁組が叶わなかったから余計に気合いが入っていたのだろう。
そして、生まれて間もない斎月は、俺の許嫁にされた。
だがお互い、ろくにその話を知らずに育った。
色々あって斎月が國陽と許嫁になったため、俺の許嫁の座は空白となった。
当主である國陽に許嫁が置かれたから、しかもそれが斎月だったから、俺にその場所を急ぐ必要はなくなったらしい。
「……あのさ國陽、霞湖ちゃんの前で言うのも申し訳ないんだけど、俺、霞湖ちゃんのお祖父さんに、霞湖ちゃんを俺の嫁にはやれないって言われてるんだけど……」
本屋涯のおじいさんがどこまで司家のことを知っていたかは、今となってはわからない。
でも、はっきりとそう言われている。
「たしかに、霞湖嬢の水束家も、母方の家も、神祇一族とは関係がなく、派生の家でもない。だが正直言って、俺が大和家からさくを妻に迎えることを最後に、連綿と続く神祇(じんぎ)内部でのみの婚姻を終わらせたいと考えている」
「……それって……」
――司家はほぼ、神祇一派の者と婚姻してきた。
神祇一派といっても数が多いので、血が濃くなるようなことはなく来た。
そして大和家は神祇ではないけれど、古い一族とでも言うのか。歴史のある家だ。司の縁組対象ではあった。
「優大の結婚は、優大の自由意思としたいと思っている。先代や先々代には話は通してある」
「先に父さんとじいさまに根回しするのやめてくんない?」
反射的に俺がそう返すと、霞湖ちゃんが驚いた顔をした。