幸いなことに俺たちは、面差しはそっくりというほどではないけど、親戚だとはわかる程度に似ていて(國陽の造形には到底及ばないが、うっすら親戚だと認識はできる)、背格好はほぼ同じだ。

俺も、國陽の影を嫌だと思ったことはない。

この仕事のことは、誰にも言ったことはない。

家の話だし、外に流れていい話でもない。

國陽が当主になったのは中一で、俺が中二の年だ。

それに伴い公の仕事には俺が『國陽』として出ることが決まっていたから、俺も中一の終わりで部活は辞めた。

國陽の当主就任後は、休日はほぼ仕事関係で埋まることが目に見えていたし、両立できるほど器用でもないから。

高校でも部活には入っていない。

その辺りに未練はない。

辞めることを前提で入部したから、やり切った感じで終わることが出来た。

さすがに、「一年で辞めます」なんて宣言は出来なくて、一年生の秋ごろに担当の先生や部長に、家の用事で続けられなくなったという風に話した。

在籍するだけでも、と引き留められたけど、それも断った。

そんな中途半端は、本気でがんばっている部員に失礼だと思ったから。

――俺が生きていく場所は、もう決めている。

結菜さんと、落ち合う場所と時間を決めて、電話を切った。

小埜病院の仕事に関する調べ事は、昨日國陽から話が来た後に済ませてある。

二階にある自分の部屋の本棚から、ファイルを取り出す。

壁一面を埋め尽くす本棚に詰まったファイルたち。

今まで――國陽の影になると決めてから、司家がやってきた仕事、やっていく仕事を自分なりに調べてまとめてある。

國陽の影をやめる日は、まだ先になりそうだ。

まあ俺も、影になる代わりにって、条件を一つ司家に突きつけたしな。

今回の仕事は、小埜家の臣に下った桜城家で、内部争いが起こらないよう主家である小埜の人たちに監視をきつくするよう伝えることだ。

桜城や小埜に問題があるようなら、俺が解決策も提示していく。

――以前、國陽が言った。

國陽(じぶん)の代わりに当主として出る優大(おれ)の言葉は、『当主』の言葉ととれ、と。

そういうことを言えるあたり、國陽は長に向いていると思う。

俺なんかは思いつきもしないことだ。

小埜病院――小埜家とそれにまつわる家に関してまとめたファイルを机に置いて、……嫌々ながらクローゼットを開ける。