小埜家は司家の、古い言い方をすれば臣下の更に臣下の一つで、陰陽師の家柄だ。
数代前の人が病院を開いて、最初は個人病院だったのがだんだん拡大されていき、今では地域では頼りにされる大病院の一つだとのこと。
『桜城家内部で跡目争いにもなりそうだから、若当主が早めに手を打っておきたいと』
俺が名代として表に出るときは、司家の人は俺のことも『國陽』と呼ばなければならないので、その呼び分けとして、内部で國陽のことは『若当主』と呼ばれている。
俺は自分の仕事を当主名代と言い表すけど、仕事先に『名代』だとばれるわけにはいかない。
俺が國陽の影をやっていることは、司内部でも知っているのは一部で、仕事先で『俺』は司國陽でなければならない。
結菜さんはその辺りも当然把握していて上手く使い分けてくれる。
二十五歳という若さだけど、当主秘書ってのは、うちにとっては当主補佐と相違ないから。
そんで桜城って言うのは、小埜黎の生まれた家。
これまたややこしいことなんだけど……愛人の子である黎と、正妻の子である弟の架(かける)、どちらを次の当主にするか、みたいなお家騒動が起こりそうとかなんだとか。
それを問題化させないのも、司家の役目ってところか。
「國陽からは、院長にガンつけとけって言われてますけど」
『ええ、今回はそれで問題ないかと。上からの見張りがあるとわかれば、小埜も気を引き締めるでしょうから』
数の暴力みてーだな。相変わらずの司家の方針だ。
まあ、半端じゃない数を束ねているから、いちいち問題解決までは突っ込んでいる首がないのだろう。
司の当主はあくまで國陽。俺はその影。
國陽を含む司の首脳たちが出した方針を、俺が必用各所に伝える。俺たちの役割はそんなところだ。
なんで影が必要かと言うと、國陽は『龍の心臓』を離れることが難しいからだ。
別に國陽の身体が弱いとかそういうことではない。いつかは、國陽の影は必要なくなる。
俺が影を務めるのは、それまでの約束だ。
そして司の内部でそれが出来るのは、國陽と唯一の同年代である俺だけ。