「だめ。だめだよ。わたしのために、危険なことをしないで」
ひなたは必死で僕を止めようとしていた。
でも僕は止まるつもりなんてなかった。
「好きな子のために体を張れないなら、僕がいる意味なんてないから」
ひなたへと声を戻すと、僕は聖へとまっすぐに向き合っていた。
「聖。わかってくれないなら、力尽くでも、お前を止める」
「できますか? 貴方に、俺を止める事が」
「できなくたって、やってやるっ」
僕は聖に向かって飛びつく。
でも聖は僕の動きなんてお見通しとばかりに、すぐに僕を避けて、僕の背中に肘を打ち下ろした。
「がはっ!?」
思わず息をはきだす。
強い痛みが背中に走って、僕はそのままたたらをふむ。
激しい痛みに息がまともにできない。
「友希くん!?」
ひなたがすぐに僕にかけよってくる。
「ひなた……だめだ。……近づいたら、危険……だ」
なんとか呼吸の合間に声を漏らした。
だけどひなたは僕の前に立ちふさがる」
「やめて。友希くんを傷つけないで」
「なら、貴方が代わりに傷ついてください! 俺の目標は、あくまでも貴方です」
聖が再びナイフを構えていた。
だめだ。聖にこんなことさせてはいけない。
立て。立てよ。僕の体よ、動けよ。
僕は気力を振り絞って立ち上がる。そして聖の前に僕は立ちふさがる。
「ぜったいに……させ……ない」
だけど僕は運動なんてほとんどしない。ただの高校生だ。
ナイフをもった相手を倒せるほどの力なんてない。
だから。
だからせめて。
ひなたを逃がす時間を、作るんだ。
痛みでふらふらしていた。
喧嘩なんてほとんどしたこともないから、こんな痛みは味わったことがなかった。
それでも僕はひなたを守りたかった。
「無理ですよ。今は友希さんでは、もう止められませんよ」
聖の顔はまるで仮面のようにはりついていて、全く様相を変えようとはしない。
ただ僕へと一歩だけ歩み寄ってくる。
ひなたを守るためには、もういましかない。聖を何とか抑えて、ひなたに逃げ去ってもらう。それしかない。そう思っていた。
だけど次の瞬間、巡らせていた思考は全てかき消されていた。
「聖、それ以上やったら殴るから。あんたがもう私の事を好きだなんて思えないくらいに」
美優がそこに立っていた。
聖のさらに向こう側に、美優の姿がある。どうしてこんなところに美優がやってきたのかわからない。この辺りは普段あまり人がくるようなところではない。
美優の顔は怒っているのか、それとも泣いているのかもわからない。ただ複雑な想いを抱えて、いま聖の目の前に立ちふさがっているのはわかる。
いつものように拳を握りしめて、聖だけをじっとにらみつけていた。僕とひなたの事は目にいれまいとしているようにも思えた。
美優の名前を呼びそうになって、だけど言えなかった。僕に彼女を呼ぶ資格があるだろうかと心の中で振り返る。
僕は美優を傷つけてしまった。美優が僕の事を好きでいてくれた事を知っていながらも、今もひなたとつないだ手を離さないままでいる。それはきっと美優を傷つけてしまうと知っていながらも、それでもやめる事はできない。
だから僕は美優の名を呼べなかった。
ひなたは美優と会った事はないはずだ。そして結局僕はまだひなたに美優との事を話せてはいない。だから目の前に現れた少女が何者なのかも理解していないだろう。
だけど聖は違う。美優に出会ってきっと慌てているだろうと思う。自分がしでかした事を知られたくないんじゃないかと思った。
それなのに聖は何も感じていないかのように、ただ美優に向き直って、ゆっくりとした言葉で告げる。
「美優さん。待っていてくださいね。もう少しで終わりますから。もう少しで全て終わりに出来ますから。また元のように戻るんです」
愛しく思っているはずの人の前で、なのに張り付いた笑顔が崩れない。
聖にはもう言葉は届かないのかもしれない。僕は痛いほどに感じ取っていた。
「聖! あんた言ってもわかんないの!?」
美優の手が伸びる。いつもならここで美優の拳が聖を殴りつけるところだった。
しかし聖は美優の手を捕らえると、そのまま強く握りしめた。
「痛いっ」
美優が大きく声を上げる。それなのに聖は手を乱暴に振り払っていた。
「美優さん。まだです。まだ早いんです。もう少し待っていてください」
「聖! あんた」
美優が驚いた声をもらす。聖は今まで美優に力を振るった事はない。それどころか聖から触れた事すらない。聖がいつもと違う事に美優も気がついたのだろう。
「そう。あんたおかしくなってしまったのね。だから私にあんなライムを送ってきたんだ。急にこんなところにこいだなんておかしいと思った」
美優はため息まじりに誰に告げるでもなくつぶやく。
その言葉に僕は驚きを隠せない。
「本当はあんた私に止めて欲しいんでしょ。だから私をここに――」
美優がいいかけた言葉を聖は遮るように
聖は表情一つ変える事はなく、美優へと淡々とつぶやいていた。
「俺は、美優さんに、幸せになってもらいたいんです。だから」
聖はひなたへと向き直る。
「その子を消します。邪魔をするなら、美優さんだって容赦しません」
冷たい声が鳴り響いた。
言っていることがむちゃくちゃだった。
美優のためのはずなのに、その美優にすらナイフを向けようというのだろうか。
ひなたは必死で僕を止めようとしていた。
でも僕は止まるつもりなんてなかった。
「好きな子のために体を張れないなら、僕がいる意味なんてないから」
ひなたへと声を戻すと、僕は聖へとまっすぐに向き合っていた。
「聖。わかってくれないなら、力尽くでも、お前を止める」
「できますか? 貴方に、俺を止める事が」
「できなくたって、やってやるっ」
僕は聖に向かって飛びつく。
でも聖は僕の動きなんてお見通しとばかりに、すぐに僕を避けて、僕の背中に肘を打ち下ろした。
「がはっ!?」
思わず息をはきだす。
強い痛みが背中に走って、僕はそのままたたらをふむ。
激しい痛みに息がまともにできない。
「友希くん!?」
ひなたがすぐに僕にかけよってくる。
「ひなた……だめだ。……近づいたら、危険……だ」
なんとか呼吸の合間に声を漏らした。
だけどひなたは僕の前に立ちふさがる」
「やめて。友希くんを傷つけないで」
「なら、貴方が代わりに傷ついてください! 俺の目標は、あくまでも貴方です」
聖が再びナイフを構えていた。
だめだ。聖にこんなことさせてはいけない。
立て。立てよ。僕の体よ、動けよ。
僕は気力を振り絞って立ち上がる。そして聖の前に僕は立ちふさがる。
「ぜったいに……させ……ない」
だけど僕は運動なんてほとんどしない。ただの高校生だ。
ナイフをもった相手を倒せるほどの力なんてない。
だから。
だからせめて。
ひなたを逃がす時間を、作るんだ。
痛みでふらふらしていた。
喧嘩なんてほとんどしたこともないから、こんな痛みは味わったことがなかった。
それでも僕はひなたを守りたかった。
「無理ですよ。今は友希さんでは、もう止められませんよ」
聖の顔はまるで仮面のようにはりついていて、全く様相を変えようとはしない。
ただ僕へと一歩だけ歩み寄ってくる。
ひなたを守るためには、もういましかない。聖を何とか抑えて、ひなたに逃げ去ってもらう。それしかない。そう思っていた。
だけど次の瞬間、巡らせていた思考は全てかき消されていた。
「聖、それ以上やったら殴るから。あんたがもう私の事を好きだなんて思えないくらいに」
美優がそこに立っていた。
聖のさらに向こう側に、美優の姿がある。どうしてこんなところに美優がやってきたのかわからない。この辺りは普段あまり人がくるようなところではない。
美優の顔は怒っているのか、それとも泣いているのかもわからない。ただ複雑な想いを抱えて、いま聖の目の前に立ちふさがっているのはわかる。
いつものように拳を握りしめて、聖だけをじっとにらみつけていた。僕とひなたの事は目にいれまいとしているようにも思えた。
美優の名前を呼びそうになって、だけど言えなかった。僕に彼女を呼ぶ資格があるだろうかと心の中で振り返る。
僕は美優を傷つけてしまった。美優が僕の事を好きでいてくれた事を知っていながらも、今もひなたとつないだ手を離さないままでいる。それはきっと美優を傷つけてしまうと知っていながらも、それでもやめる事はできない。
だから僕は美優の名を呼べなかった。
ひなたは美優と会った事はないはずだ。そして結局僕はまだひなたに美優との事を話せてはいない。だから目の前に現れた少女が何者なのかも理解していないだろう。
だけど聖は違う。美優に出会ってきっと慌てているだろうと思う。自分がしでかした事を知られたくないんじゃないかと思った。
それなのに聖は何も感じていないかのように、ただ美優に向き直って、ゆっくりとした言葉で告げる。
「美優さん。待っていてくださいね。もう少しで終わりますから。もう少しで全て終わりに出来ますから。また元のように戻るんです」
愛しく思っているはずの人の前で、なのに張り付いた笑顔が崩れない。
聖にはもう言葉は届かないのかもしれない。僕は痛いほどに感じ取っていた。
「聖! あんた言ってもわかんないの!?」
美優の手が伸びる。いつもならここで美優の拳が聖を殴りつけるところだった。
しかし聖は美優の手を捕らえると、そのまま強く握りしめた。
「痛いっ」
美優が大きく声を上げる。それなのに聖は手を乱暴に振り払っていた。
「美優さん。まだです。まだ早いんです。もう少し待っていてください」
「聖! あんた」
美優が驚いた声をもらす。聖は今まで美優に力を振るった事はない。それどころか聖から触れた事すらない。聖がいつもと違う事に美優も気がついたのだろう。
「そう。あんたおかしくなってしまったのね。だから私にあんなライムを送ってきたんだ。急にこんなところにこいだなんておかしいと思った」
美優はため息まじりに誰に告げるでもなくつぶやく。
その言葉に僕は驚きを隠せない。
「本当はあんた私に止めて欲しいんでしょ。だから私をここに――」
美優がいいかけた言葉を聖は遮るように
聖は表情一つ変える事はなく、美優へと淡々とつぶやいていた。
「俺は、美優さんに、幸せになってもらいたいんです。だから」
聖はひなたへと向き直る。
「その子を消します。邪魔をするなら、美優さんだって容赦しません」
冷たい声が鳴り響いた。
言っていることがむちゃくちゃだった。
美優のためのはずなのに、その美優にすらナイフを向けようというのだろうか。



