「聖!?」
僕はただ叫んでいた。それ以外に出来なかった。
崖の隅にひなたは追いつめられて、その目の前に聖は立っている。
「その人がいるから、いけないんです。その人が」
聖は淡々とした声で告げる。
僕は聖を挟んで反対側にいて、身動きをとれずにいた。変に動けば聖はひなたを突き落としてしまうかもしれない。そう思わせるだけの空気がこの場に満ちていた。
三月六日、コンテストの日。僕はひなたと会っていた。コンテストが終わって、そして二人で話していた時のことだった。
コンテストの会場からいつもの海浜公園に向かう途中、僕達は聖と出会った。
聖は蛇のような冷たい瞳を僕達に向けていた。
それから細かいことは覚えていない。だけど僕達は聖に追われて、この崖まで追い詰められていた。
「ね、こんなことはやめよう。何にもならないよ。これで私が死んだとしても、君の思いとおりにはならないもの」
聖が危害を与えようと迫ってきているにもかかわらず、ひなたは聖を説得しようとして声をかける。そんなところがひなたらしいとも言えるが、かといって危険なことも間違いなかった。
ひなたは自分が正しいと思った事には決して曲げようとはしない。だから聖に屈する事もないだろう。
しかし今の聖は明らかにどこかおかしくなっている。変に刺激すれば、それこそ崖の上から突き落としかねないと思う。
「貴方が、貴方がいなければ、きっとうまくいくはずです」
聖には言葉が通じなかった。
ただゆっくりと迫ってくる彼に、僕達は恐怖を覚える以外には出来なかった。
「俺はあの人のためなら、なんでも」
聖は何かつぶやくと、それからひなたへと手をのばした。
ひなたはその圧力に耐えかねるようにして、後ずさる。
でも、もう後がない。ひなたは崖の上から転落して、海の中へと落ちていく。
「いや……。あ……っ。友希くん……たすけ……!」
ひなたが声を漏らした。
「これで、これでいい。これでいいはずなんだ。だから」
聖が何か告げていた。
でも僕はすぐに背を向けて、海へと向けて飛び込んでいた。
「友希さん!? なんで、なんで貴方まで海に」
聖の声が聞こえたけれど、僕の耳にはもう届いていなかった。
ひなたを。ひなたを助けるんだ。
ひなたを。
茜色の空が、海に反射していた。
彼女を追いかけるけれど、届かない。彼女は一足先に海へと沈んでいた。
海面が僕を打ち付ける。
ひなたを救いたいのに。
喉の奥に海水が入り込んでいく。
頭がいたい。
どこかを打ち付けてしまったのかもしれない。
意識が遠のいていく。
救わないといけないのに。
どうして、聖はあの子を害しようとしたんだ。
あの子って、誰だ。
わからない。
記憶が、混濁していく。
何も。覚えていない。
そのまま僕は意識を失っていた。
それが失った記憶の全てだった。
僕はただ叫んでいた。それ以外に出来なかった。
崖の隅にひなたは追いつめられて、その目の前に聖は立っている。
「その人がいるから、いけないんです。その人が」
聖は淡々とした声で告げる。
僕は聖を挟んで反対側にいて、身動きをとれずにいた。変に動けば聖はひなたを突き落としてしまうかもしれない。そう思わせるだけの空気がこの場に満ちていた。
三月六日、コンテストの日。僕はひなたと会っていた。コンテストが終わって、そして二人で話していた時のことだった。
コンテストの会場からいつもの海浜公園に向かう途中、僕達は聖と出会った。
聖は蛇のような冷たい瞳を僕達に向けていた。
それから細かいことは覚えていない。だけど僕達は聖に追われて、この崖まで追い詰められていた。
「ね、こんなことはやめよう。何にもならないよ。これで私が死んだとしても、君の思いとおりにはならないもの」
聖が危害を与えようと迫ってきているにもかかわらず、ひなたは聖を説得しようとして声をかける。そんなところがひなたらしいとも言えるが、かといって危険なことも間違いなかった。
ひなたは自分が正しいと思った事には決して曲げようとはしない。だから聖に屈する事もないだろう。
しかし今の聖は明らかにどこかおかしくなっている。変に刺激すれば、それこそ崖の上から突き落としかねないと思う。
「貴方が、貴方がいなければ、きっとうまくいくはずです」
聖には言葉が通じなかった。
ただゆっくりと迫ってくる彼に、僕達は恐怖を覚える以外には出来なかった。
「俺はあの人のためなら、なんでも」
聖は何かつぶやくと、それからひなたへと手をのばした。
ひなたはその圧力に耐えかねるようにして、後ずさる。
でも、もう後がない。ひなたは崖の上から転落して、海の中へと落ちていく。
「いや……。あ……っ。友希くん……たすけ……!」
ひなたが声を漏らした。
「これで、これでいい。これでいいはずなんだ。だから」
聖が何か告げていた。
でも僕はすぐに背を向けて、海へと向けて飛び込んでいた。
「友希さん!? なんで、なんで貴方まで海に」
聖の声が聞こえたけれど、僕の耳にはもう届いていなかった。
ひなたを。ひなたを助けるんだ。
ひなたを。
茜色の空が、海に反射していた。
彼女を追いかけるけれど、届かない。彼女は一足先に海へと沈んでいた。
海面が僕を打ち付ける。
ひなたを救いたいのに。
喉の奥に海水が入り込んでいく。
頭がいたい。
どこかを打ち付けてしまったのかもしれない。
意識が遠のいていく。
救わないといけないのに。
どうして、聖はあの子を害しようとしたんだ。
あの子って、誰だ。
わからない。
記憶が、混濁していく。
何も。覚えていない。
そのまま僕は意識を失っていた。
それが失った記憶の全てだった。



