三十六日間の忘れ物

 今日は終業式だから、昼で学校は終わりだった。
 時間は十分にある。ひなたの事を捜そうと思う。
 昨日のうちにネットでいろいろと検索してみたけれど、ひなたにつながる情報は何もなかった。
 なら考えられるのはしらみ潰しに家を捜していくしかないけれど、いくらこの町が狭いとは言っても、すべての家を探すのはかなりの時間がかかるだろう。
 それでもひなたがこの辺りに住んでいるという事だけは間違いないはずだ。
 うちの高校の三年生には、綾瀬という名はない。三年生も担当している先生数人に聞いたから間違いないし、そもそも学校が同じであればいくらなんでも四ヶ月の間、全く会わないなんて事はあるはずがなかった。それほど大きな学校ではないし、ひなたのような目立つ容貌をしていればなおさらだ。
 学校が近い訳でもないのに、この辺りに普段からいるという事は、家が近所にあるのだと考えられる。ちょうどこのあたりは校区の境目だから、中学校までは別の校区で出会った事がないのは十分に有り得る話だ。
 町の地図を広げてみる。昨日のうちにある程度、区域を区切っておいた。校区が違うとして考えれば、ある程度は絞り込めるはずだ。
 ひなた捜しの一日目が始まっていく。
 まずは公園の近隣から捜し始めていた。田中、佐藤、山口……。表札を一つ一つ眺めていくけれど、残念ながら見つからない。
 ひとまずは一件、一件、家の表札を眺めていく。しばらく歩いただけで、足が棒のようにだるい。
 捜し歩いているうちに、一つの疑問が浮かんでいた。
 どうして僕はひなたを捜すんだ。ひなたと会ってどうするんだ。
 ずっとひなたからの連絡もなかった。連絡先も消されてしまっている。それならこんな風に捜すのは、ひなたにとって本当は迷惑なんじゃないだろうか。冷静になってみれば、少しストーカーっぽい気もする。
 仮にみつかったとして、僕はいまさらひなたに何を言うつもりなんだろうか。
 後ろ向きの気持ちが表札を見る度に僕を襲った。それでもその都度、僕は首を振るい続けていく。
 ひなたに会いたい。本当の事を知りたい。
 その気持ちだけが、僕を突き動かしていた。
 失っていた記憶と想い。
 僕が求めているのは、その二つだ。僕はどうして事故にあったのか。その時に僕はどんな気持ちを抱いていたのか。それさえ確かめられたなら、この落ち着かない気持ちも元に戻るはずだ。
 僕は失われていた時間を取り戻したい。
 次の家の表札を見つめる。
 だけど綾瀬という名前の家は、結局一件も見つからなかった。