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「“私は、私の元の姿を思い出せない。きっと、もう戻れない……。このまま、鼠の姿のままサンにも気づかれずに消えていくんだわ”」

 鼠となった(灰色のローブに体を覆った)レイニーがサンのパン屋でうずくまり、しくしく泣く。
 サンが帰宅し、レイニーはサンに呼び掛ける。しかし、サンには届かない。

「“サン……ねえ、サン、私よ。レイニーよ。気づいて”」

 そのときレイニーは、落ち込んでいるサンが眺めていた一枚の写真を目にする。それはまだ小さい頃、レイニーとサンが二人で映った写真だった。

「“ああ……私は、こんな顔をしていたんだわ。魔法がなくても、こんな風に笑えていたんだわ。私は、私を見てくれるサンが居れば——”」
「“……レイニー……?”」

 サンは後ろから響く声に気がつき振り返る。名前を呼ばれ、本来の自分自身を思い出したレイニーは元の姿に戻っていく。

「“サン……、サン、私よ。レイニーよ”」
「“レイニー……! ずっと、ずっと会いたかったんだ。レイニー、君に。ただ傍で笑ってくれる君に、ずっと会いたかったんだ”」
「“私もよ、サン。……魔法が使えなくても、私は貴方に認めてもらえるかしら”」

 サンは大きく頷き、彼女を優しく抱き寄せる。

「自分の姿を取り戻したレイニーと、姿の見えない彼女を想い続けたサン。二人が見上げた空には、大きな虹が掛かっていたのです——」