意外な共通点に思わず目を丸くする。私も青空廊下が好きで、一年のときには佳子たちを誘い、調達した購買のパンを頬張っていた。
 ……辞めてしまったのは、そうだ。佳子が『日焼けすんじゃん。つか飽きたし、もう普通に教室でよくない?』と吐いたからだ。

「私ね、青空廊下がオレンジ色になるの、結構好き」

 あの日消してしまった“至福の時間”を起こしながら、思い切って言ってみる。するとハスミは目を輝かせて頷いた。

「オレンジ廊下ね!アタシも好き!あそこでイケメンに告白されるのが夢だなぁ~」
「えぇ? 何それ、イケメン限定?」
「むしろ、アイドル限定」

 にひっと笑ってみせる彼女のバッグには、現代でも国民的アイドルとして崇められているグループの、美しい顔写真を埋め込んだキーホルダーがぶら下がっている。最近は彼らをテレビやネットニュースで見ない日はないけれど、この頃はどうだったっけ。
 訊くわけにもいかず、私は「ハスミらしいね」と笑みを返した。

「それよりさぁ、トーコさ~ん?」
「うん?」
「今日の学祭には誘えたの? 綾崎のこと」

 すでに上がりきっていたハスミの口角が、さらに上へと吊り上がる。透子はやたらめったら“好きな人”について話すタイプでは無さそうなので、ハスミとはかなり親しいのだろうと察知した。
 それに、悪巧みを含んだようなその笑みには何故か親近感すら沸いてくる。私は何の警戒心もなく、彼女に“待ち合わせの件”を打ち明けた。

「なになに?!ちゃんと進展してんじゃん!」
「ま、まぁ……そうかな……」
「だってアレだよ?!あの綾崎だよ?!仏頂面で愛想なんてまるで無しの!」

 確かに、十年前の先生は愛想なんてまるで無しだ。
 歯に衣着せぬ言い様に思わず吹き出す。声を上げて笑い出すと、ハスミは目を丸くして私を見つめていた。

「ん?どうしたの?」
「いや、トーコがそんなツボに入るなんて珍しいなぁと思って……」
「えっ、へ、変かな……?」
「そんなことないって!そんくらい豪快に笑ってもトーコは可愛いから大丈夫~」

 その言葉に安堵しながら、私は危惧する。中身が別物に入れ替わったせいで、美人で清楚な宮城透子のイメージががさつに変わらないだろうか。
 苦笑しながら校門の前へ辿り着くと、玄関口に飾られたお手製のアーチと、体育館方面への行き来を禁ずるレッテルが交互に目に入る。屋台はすでにテントを畳んでいて、燃えた木々の残骸が火事の凄惨さを物語っていた。

「うっわぁ~結構でっかく作ったね。去年もこんなだったっけ?」

 クイッ、と袖を引っ張られて、ハスミと同じように上を向く。昨日の事故についてフラッシュバックさせないように、気を遣ってくれたのかもしれない。
 宮城透子は、遠山千怜が築き上げることの出来なかった友情にも恵まれていたのか。現代の自分を惨めに思いながら、暖色の花で彩られたアーチを視線で辿る。

「——え?」

 そして視線がてっぺんに及んだ直後、私はフリーズした。ここは浅羽高校で間違いなく、しかし“青鳴祭”と書かれているはずの頭上に青の文字は存在しない。

 “浅羽高校・茜鳴祭”

 一つのパネルに一文字ずつ綴られた漢字はとても凛々しく、火のように赤い花々に囲まれて堂々佇んでいた。