――明日、雨を降らせる。

 中間試験が終わったばかりの日曜日の夜、旭からスマホに短いメッセージが届いた。連絡先は交換していたけど、お互いにほとんど使ったことはなかった。
 月曜日の十六時、彼は図書館の隣町を指定した。五丁目の記載まである。
 雨を操れるなんて、到底信じられるわけがない。けれど彼がそんな嘘をつく理由も思いつかなくて、とりあえずスマホに天気予報のアプリを入れて、彼が示した場所を手入力で登録した。明日の予報は晴れ。降水確率は十パーセントで、雨が降るとはまず思えない。

 そんなことはすっかり忘れて過ごした月曜日、学校から帰る前にメールをチェックしようと画面を見て、思わず「えっ」と声が漏れた。「雨雲接近中」の文字が通知されていた。予報を見てみると、今日はずっと晴れマークが続いていたはずなのに、途中から傘マークに変わっている。その時刻は、十六時。
 急いで学校を飛び出して、スマホのGPSを頼りに早足で歩いた。行ったことのない町を目指して、休館日の図書館の前を通り過ぎて、バス停を素通りして。いつの間にか十六時を過ぎていて、目的地が近づくにつれて、あっという間に天気は悪くなった。
 指示された町の一丁目に辿り着いた時には小雨が降り始めていて、私は折り畳み傘をさす。雨粒はみるみる大きくなって、五丁目では大粒の雨が傘を叩くようになっていた。時計を見ると、十六時二十分。水たまりの大きさを見ると、五丁目で十六時から雨、という予報はドンピシャで当たっていたみたい。
「ほんとに降ってる……」
 傘の下から灰色の空を見上げる。今日は晴れの予報のはずだったのに、この土砂降りはなんなんだろう。まるでこの場所をピンポイントで狙って、雨雲が集まっているみたい。
 道を曲がると水に濡れるアスファルトの先に、青い傘をさした見覚えのある後ろ姿が目に入った。足早に向かうと、彼もこっちを振り向いた。
「どうやったの?」
 私は唐突な質問を旭に投げかけた。まるで彼を中心に雨が降っているような気がした。
「なんで、ここで雨が降るってわかったの」
「わかったわけやない。俺が降らせたんや」
「降らせたって……」あり得ない、って言葉が続かなかった。ネットでもテレビでも、今日の市内の天気予報は晴れだった。その予報を覆す雨の時刻や場所を特定することなんて、できるはずがない。
 けど、昨晩彼の言った通りに雨が降っているのは、紛れもない事実。
「先生に言われてな。思い通りに降らせる訓練や。いつか止ませることも出来るかもしれん」
 野良猫と会話をして、自由に雨を降らせる男の子。彼の能力に対する疑念は、私の中でいつの間にか払拭されていた。
「不思議な力だね」
 そう言うと、彼は苦笑した。
「不気味やろ」
「そんなことないよ。傘をささないのはどうかと思うけど。……でも、雨は私、嫌いじゃないよ」
 旭が目を丸くする。
 私だって、雨に濡れたり帰りのバスが混んだりするのは嫌だけど、雨が降るのは嫌じゃない。夜に雨音を聞きながら眠るのは、心が落ち着いて大好きだ。
「……ほうか」私の言い分を聞くと、彼は安堵に似た表情を浮かべた。傘を傾けて、灰色の空を見上げる。
「雨はええよな。全部隠してくれる」
「全部って、何を……」
「なんでもない。気にせんでくれ」
 意味深な台詞を口にした旭の横で、少しの間、一緒に雨雲を見つめた。五月の終わりの雨が傘を叩く音を、ただ黙って聞いていた。