それから一週間、私は図書館に通い詰めたけど、旭は一度も来なかった。だけど来るように催促するのも憚られて、悶々とする日々が続いた。彼が笑っていたら、落ち込んでいたら、どう接するのが正解なんだろう。あの日のことは知らんぷりすべきなのか、心配の言葉をかけるべきなのか。もともと必要最低限しか連絡を取っていなかったから、切り出し方もよくわからない。
 間違いないのは、旭は重傷を負って苦しんでいるということ。一番の救いを失って、果てしない孤独に沈んでいるということ。
 散々考えて、スマホにおはようの言葉に続けてメッセージを打ち込んだ。

 ――次、いつ図書館に来る?

 電話では、上手に機転の利く台詞を口にできる気がしない。だから、せめて文字で想いを伝えることにする。

 ――会いたい。

 心に浮かんだ四文字を続けて打って、これが自分の本心だと気が付いた。旭に会いたい。独りぼっちだなんて思って欲しくない。会話にならなくてもいい、ただ隣にいたい。不安も悲しみも、私に少しでも分けてほしい。ただただ、旭に会いたい。
 祈るように、送信ボタンを押した。
 それが今朝、通学途中のバスの中でのこと。後はもう授業どころじゃなくて、一時限終わるたびにスマホを取り出しては確認して、返事がないことにため息をついた。
「ねー、梓、聞いてる?」
 ふわふわした気持ちの私は、結々の声にはっとする。確か先日の文化祭の話をしていた彼女は、正面でお弁当箱を片付けつつ怪訝な顔をしていた。
「えっと……文化祭のことだよね」
「今度、合同で画集を出すことになったって話。文化祭で、他の学校の子に声かけられてさ」
「あ、その、ごめん。もっかい話してくれないかな」
「それはいいんだけど」
 私の手元に視線を移す。そっくり中身が残っているお弁当に、私は慌てて箸をつけた。
「梓こそ、ぼーっとして。何考えてたの」
 生姜焼き弁当を食べながら、私は呟く。「返信がなくって……」彼のことをそっくり全て語るのは気が引けて、曖昧な言葉で濁した。それでも結々は旭のことだと察して、なるほどと何回も頷いた。
「そっかそっかあ。それで何度もスマホ見てたんだ。いつ送ったの」
「今朝、バスで」
「そりゃしょーがないよ」大仰に目を見開いて、結々は苦笑いする。「気付いてないだけだって。気にし過ぎだよ」
 ことはそう簡単じゃないんだけど……。そう言えない私の視界の隅で、スマホの画面が点灯した。1件の新着メッセージという表示。慌ててお弁当を机に置いてスマホを手に取った。
「ほらほら、噂をすれば。もー、あたしの前でやり取りしないでよ、嫉妬しちゃうよ?」
 そう言って笑いながら、結々もスマホを覗き込んだ。
 メッセージを開くと、「ごめん」の三文字が目に飛び込んだ。続く言葉は、「忙しいから、会えん」。
「あー……」まずいものを見た、結々はそんな表情をする。「だ、大丈夫だって。西ノ浦なら、テストとかで忙しいんじゃない? あんまり心配しないでいいって」
「そうだね……」
 ため息をのみ込んで、私はそっと机にスマホを伏せた。
 私には、旭を救えないのかな。
 いたたまれない気持ちで、胸が潰れそうだった。
 季節は、十二月を迎えていた。