夜の一件に私も疲れていて、次の日、放課後の図書館でうたた寝をしてしまった。旭に起こされた頃には閉館三十分前のアナウンスが流れていて、いつの間にか二時間も眠ってしまっていた。
「よう寝るなあ」
 彼は筆箱にペンをしまう。私も、結局広げただけでほとんど進まなかった問題集を閉じて、鞄に入れた。
「ちょっと疲れてて」あくびを噛み殺す。
「ゆうべ寝れんかったんか」
 うーんと唸りつつ、美澄さんの件を話そうか迷う。旭なら何かいい案が思い浮かぶかもしれない。あのさ、と言いかける。
「どっか出かけてたんか」
 だけど、私が声を出す前に彼は切り出した。
「えっ?」
「昨晩、どっか行ってたから寝てないんか」
 まだ少し寝ぼけていた頭が、彼の鋭い視線にはっきりしていく。何か冗談を言っているのかと思ったけど、彼の表情は真剣だった。
「まあ、そう、かな」
 何だか空気がぴりりと張るのを感じて、却って口ごもってしまう。
「どこ行ってたん」
「コンビニ……」
「そんだけか」
「うん。……でも、なんで?」
 どうしてそんな顔をするんだろう。私、旭を怒らせるようなことをしちゃったのかな。そんな不安な気持ちを察したのか、旭は「いや」と首を振った。
「ちょっと気になっただけや。忘れてくれ」
「なにそれ」
「夜遊びしとったら嫌やなあと思ただけや」
 彼は笑ってみせるけど、その台詞が本心だとは思えなかった。だけど問い詰めようとしたところで、彼は鞄を手にして立ち上がる。周りの人たちも帰宅準備を始めていて、仕方なく私も席を後にした。
「今日はちゃんと寝ろよ」
「わかってるよ」
 図書館を出てさっさと手を振って行ってしまう彼の背中を、私はただ見送った。