「輝先輩こそ、サボりそうなんでしょ」

「俺はサボりません。崖っぷちの受験生を舐めるなよ」


自虐されて噴き出せば、彼が「笑うところじゃないからな」と眉を寄せる。
それがおかしくて、ようやく肩の力が抜けた。


「じゃあ、やるか」

「うん」


向かい合って座れば、いつも以上に近い距離にまた鼓動が跳ねた。


意識しているつもりはないのに、どうしても目の前にいる輝先輩の動向を追いそうになる。
何度も課題に集中しようとしても、どうにも捗らなかった。


「美波、集中してないだろ?」

「えっ?」

「わからないところがあるなら言えよ」

「……先輩、教えられるの?」

「失礼な奴だな。これでも三年になってからは成績が上がったんだよ」


彼は不本意そうにしつつも、怒っている様子はない。


「どれ?」

「え?」

「だから、わからないとこ」

「あ、いや……まだそこまでいってないっていうか……」

「あ、本当だ。全然してないじゃん」

「今からやるもん」

「ちゃんとやらないと、遊園地に連れて行ってやらないぞー」

「先輩はお父さんですか」

「失礼な。れっきとした十八歳だよ」


冗談を言い合っているうちに、空気が和んでいく。
気づけば、私の中にあった緊張も少しだけ解れていた。