「奥で話そう。あっちの方がゆっくり話せるから」

「はい……」


職員室の一角には、パーティションで仕切られたスペースがある。
小さなローテーブルと、それを挟むようにしてふたつのソファが置かれている。


私は利用したことはないけれど、生徒と先生がちょっとしたことを話し合う時なんかに使われていることは知っていた。
先生の後を追うと、奥のソファに促された。


黒い革張りのソファは、擦れたような跡や縫い目が裂けそうな部分が目立っている。
年季が入っているのが見て取れた。


「あの、先生……」


座り心地の悪いソファに背中を預けることはなく背筋を伸ばし、よれよれの用紙をローテーブルの上に置く。
【退部届】という名目の下には、私の名前と退部理由が記してあった。


「やっぱり、退部するのか?」

「……はい」


沈黙のあとで零した声が、遠くから聞こえてくる喧騒にかき消される。
心臓が嫌な音を立て、息が苦しくなった。


「そうか……。前にも言ったが、マネージャーという形で残る手もあるぞ?」


低く優しい声が、耳に届く。
遠慮がちに紡がれる言葉は、私の傷口をえぐらないようにしてくれているのだとわかる。


だけど、どれだけオブラートに包まれたって、心はひどく痛んだ。