振り向いた私の視界のど真ん中にいたのは、明るく笑う金髪の男子。


「輝先輩……」


私がよほどひどい顔をしていたのか、輝先輩が目を小さく見開く。


「えっ? 夏川先輩ですか?」


そんな私を余所に、千夏が驚きと緊張を混じらせたような笑みを見せる。


「うん、君は二年?」

「あ、はい!」


そういえば、彼女は輝先輩のファンだったはず。
部活ではよく輝先輩の話をしていたし、彼が走れなくなった時には落胆していたうちのひとりだった。


「そっか。美波の友達?」

「はい! 私たち、部活でも仲がよくて!」


自分の顔色が変わったのがわかった。
千夏の顔が見られない私の様子から、輝先輩はなにかを察したのかもしれない。


「美波、もう帰るとこ? ちょっと付き合ってよ」


彼は私を見ると、まるで『大丈夫』とでも言うように瞳を優しく緩めた。


「う、うん……」


思わぬ助け船に、内心では安堵感でいっぱいだった。


千夏には特に声をかけられない私の代わりに、輝先輩は彼女に「またね」と笑う。
私は、振り返ることもなく歩き出し、彼の背中を追った。