「時間が経っても、きっと今抱えてる傷は綺麗には消えない。自分のすべてだったものを失ったんだ……。簡単に立ち直れる日が来ることなんて、想像もできない」


輝先輩の言葉に、絶望感を抱く。
それなのに、その場しのぎの綺麗事を言う大人たちよりも、ずっと信用できた。


「もしかしたら、俺たちはお互いの気持ちが一番わかるかもしれないな」


視線の先にいる彼が、ため息交じりに苦笑を漏らす。
私は涙を拭い、小さく頷いた。


第三倉庫の裏に隠れたふたつの影が、静かに揺れる。


それからはお互いになにも言わなくて、ただただ隣で座っているだけだった。
だけど、なにも言わなくてもよかった。


誰にも言えなかった自分の気持ちをわかってくれる人がいたこと。
その相手が隣にいてくれること。
ふたつの事実が、私をほんの少しだけ救ってくれた。


どす黒い感情で包まれていた心が、ゆっくりともとの色を取り戻していく気がする。
未恵の言動はまだ許せないけれど、それでもさっきみたいに殴りかかりそうな衝動はもうなかった。


いつの間にか、空は厚い雲に覆われていた。
今にも雨が降り出しそうだったけれど、今はまだここにいたかった。


だって、縋る場所も逃げる場所もなかった私に、輝先輩だけが居場所を与えてくれた気がしたから……。