「私も……。本当は、まったく泳げないって言えばうそになる……」

「でも、選手生命が絶たれたなら、もう泳げないのも同然だって思うよな」


静かに零された声に、鼻の奥がツンと痛む。
鋭い痛みは涙を誘いそうで、咄嗟に唇を噛みしめた。


(どうしてわかるの……)


その場しのぎの言葉じゃない。
上辺だけの言葉じゃない。


彼の言葉の中には、私と同じ苦しみが紛れていた。


「うん……」

「俺もだよ。選手として走れなくなった俺には、もう走れないのも同然だ。体育で獲れる一番なんか、俺には必要ない」


悔しさ交じりの言葉が、私の胸の奥を熱くする。


「そんなことのために練習漬けの日々を送ってきたわけじゃないのに……」


その苦しみは知っている。
私だって、そんなことのためにつらい練習を乗り越えてきたわけじゃない。


インターハイで優勝して、ゆくゆくはオリンピック選考会に出て……。そうして、いつかはオリンピック選手としてレースに出たかった。


夢物語だと笑われても、そんな風に笑った人たちを見返せるような選手になって、最後には惜しまれながら引退するような……そんな選手人生を送りたかった。


たとえもし、夢が破れても、こんな風に納得できない形だけは嫌だったのに……。