「わかってくれたなら……いいです」

「うん。もう呼ばない」


ホッとしたように微笑まれて、なんだか身の置き場がないような気持ちになる。


「じゃあ、美波でいい?」

「え?」

「名前、牧野美波だろ?」


私が彼のフルネームを知っていたように、彼も知っているようだった。
だけど、私たちはお互いに校内ではそれなりに有名だから、名前くらい知っていてもおかしくはない。


「俺のことは輝でいいよ」

「輝、先輩……?」

「ちゃんと先輩ってつけてくれるんだ」


輝先輩がハハッと笑う。
八重歯が覗いて、ヤンキーみたいな金髪に反して人懐っこくも見えた。


(あれ……?)


あんなに苦しかったのに、ちゃんと息ができる。
空気を吸って吐いて、普通に呼吸ができている。


そのことに気づいた時、不思議な気持ちとともに安堵感が芽生えた。


「涙は引っ込んだ?」

「たぶん……」


私が小さく頷くと、彼はおもむろに地面に腰を下ろした。
下から私を見上げて、少し迷ったような素振りを見せたかと思うと、控えめな笑みを浮かべた。