「わぁー! 牧野先輩ですよね! 私、今年入部した一年の大川(おおかわ)未恵って言います」


興奮した様子の未恵は、こちらに口を挟む隙も与えないように言葉を紡ぎ出す。


「私、中学の時からずっと牧野先輩に憧れてて、先輩みたいに泳ぎたいって――」


だけど、次の瞬間、彼女が放った言葉に顔が固まって……。

「未恵!」

千夏とコーチの慌てたような声が響いた。


「あっ……すみません……」


サッと顔色と変えた未恵に、どす黒い感情が渦巻く。


心臓がグリッとえぐられたかと思った。
それくらい、私には衝撃的な言葉だった。


きっと、私が今も選手としていられたのなら、嬉しい言葉だっただろう。


(でも……私はもう泳げない……)


心の中で唱えた言葉が、胸の奥をさらに深くえぐる。
鼻がツンと痛んで、喉がグッと絞まったように熱くなった。


「あの……私、そんなつもりじゃ……」


(だったら、どういうつもり……?)


この場に未恵とふたりきりだったら、殴りかかっていたかもしれない。
それくらい、私の中は怒りと憎しみに満ちていた。


「……ッ」


唇が痛くなるほど噛みしめ、涙をこらえてコーチに頭を下げる。
静まり返ったプールサイドから逃げるように、そのまま無言で立ち去った。