「……無理です」

「そっか……。わかった」


コーチは、あっさりと頷いた。
最初から私の答えを知っていたと言わんばかりに……。
それならこんな質問をしないでほしかったのに、あえて訊いたのだろうか。


コーチの考えなんて訊く気はないし、一刻も早く立ち去りたいけれど……。

「今までありがとうございました。……じゃあ、私は帰ります」

形だけでも頭を下げようと、傷ついた心を隠すように腰を折った。


「みんなに会っていかないの?」

「……いいです。どんな顔すればいいのかわからないですし……」


これから泳ぐみんなの前で、笑顔でなんていられない。
私が欲する時間を持てるみんなと、今まで通りには話せない。
その上、腫れもの扱いなんてされたら、きっといたたまれない。


だから、部員たちが来る前にこの場を去るのが最善だと考えていたのに……。

「美波!?」

同級生の水泳部員――河本千夏(こうもとちなつ)の声が飛んできた。