一般的な日常生活なら、確かになにも困らない。
もう全力では走れないから体育の授業はみんなと同じようにはできないけれど、そんなことは卒業するまでの話だ。
今後、不便に感じることはあっても、それだけならきっとまだよかった。


だけど、私の日常生活には〝水泳〟があった。
生活の中心で、中心の中でもさらにど真ん中にあって……。私の人生のすべてが、水泳のためにあるようなものだった。


そんな私にとって、〝これまでと同じ日常生活〟はもう二度と戻ってこない。
選手生命を絶たれた私は、すぐそばにある水の中にはもう戻れない。


嫌というほどに理解していても、こんな風に現実を突きつけられると心がどうしようもなく痛む。
水の中にいた時よりもずっと息苦しくて、陸にいるのに溺れている気さえする。


「今日は挨拶に……」

「うん、古谷先生から聞いてるよ。辞めることにしたんだね」

「はい……」

「私はコーチだから、学校の成績には関与しないけど……美波に少しでもその気があるなら、マネージャーっていう道もあるよ」


それが、私にとってどれほど残酷なことなのか……。
普通に選手を引退した上でインストラクターになったコーチには、わからないのかもしれない。
ただ、そうだとしても、あまりにも残酷すぎる。