「だから、正直驚いた。こんなに綺麗に泳ぐんだって、めちゃくちゃ目を奪われた」

「え……?」

「バタフライって、蝶って意味だろ? 本当に蝶が舞ってるみたいっていうか……スピードがあって力強いのに、すげぇ優雅なフォームだって思った」


そんな風に言われたのは初めてで、たじろいでしまう。
時々、『フォームが綺麗』とか『かっこいい』と褒められることはあったけれど、『蝶が舞ってるみたい』なんて言われたことはない。


それも、輝先輩の言葉だと思うと、身の置き場がないような……。なんだか、ムズムズした感覚に包まれた。


「……でも同時に、めちゃくちゃ悔しかった」

「悔しい?」

「うん。俺は選手として走れないのに、この子はまだまだ希望があるんだって思ったら……羨望とか嫉妬で、美波のことが眩しく見えて仕方がなかった」


そんな私を見ていられなくて、輝先輩は「プールが見えないところまで移動した」と自嘲交じりに笑った。


「でも、そのあとに泣いてる美波を見かけたんだ」


その言葉で、ふと思い出す。
部員たちから離れた場所でひとり泣いていたあの日のことを……。