輝先輩がこちらを向く。


「そんな時に、美波の試合を見たんだ」


次いで紡がれたのは、予想外の言葉だった。


「え?」


微笑んだ彼は、少しだけ悲しそうで。
だけど、もう過去で立ち止まっている様子はない。


苦しんだ時間とは決別したような、どこか晴れやかにも見える表情だった。


「いつ……?」

「インハイで準優勝した時。バタフライを泳いでた」

(あの時の……)

「圭太のいとこがインハイに出ててさ。俺のひとつ上なんだけど、結構気さくな感じの兄ちゃんで、何回か会ったことがあったから一緒に応援に行ったんだ」


宮里先輩のいとこは他校にいて、今は大学で水泳を続けているのだとか。
そのインターハイでは、五〇メートルの平泳ぎで六位に入賞したらしい。


「で、その時に初めて美波が泳いでるところを見た」


輝先輩は、あの日のことを思い出すように目を細めている。


「美波はうちの学校では有名だったし、よく笑ってる姿を見かけてて、なんとなくだけど知ってた。でも、俺は別に水泳には興味がなかったから、実際に泳いでるところは見たことなくてさ」


それは私も同じだった。
彼は有名だったし、認知はしていたけれど、ちゃんと試合を観たことはない。
そもそも、私が入学した時にはもうけがをしていたんだけれど。