「あー、えっと……俺さ……」

「放して……」

「え?」

「ひとりになりたい……」


ぶっきらぼうな私の声に、彼が困ったように眉を下げる。


「いや、でも……すぐそこに人がいるし……」


運悪く、ここからそう離れていない場所で話し声がする。
すぐ傍でたむろしているのか、声が遠のく様子はない。


たぶん、校門に行くまでにはその人たちの傍を通らなければいけなくて……。まだ涙を止められない私には、他の選択肢がなかった。


「大丈夫、誰にも見えないから」

「え……?」

「人が来たら俺が壁になるし、俺も見ない。だから――」


彼の声が、私の鼓膜をそっと撫でる。


「つらさも悔しさも歯がゆさも……どうしようもない思いも、我慢しなくていいよ」


その言葉は、まるで私の心の中を見透かすようで……。知らない人の前で泣きたくなんてないのに、弱い私の涙腺は勝手に崩壊してしまう。


「……っ!」


嗚咽が漏れるまでは、あっという間だった。