「美波……。俺だって、すぐに前を向けたわけじゃ――」

「でも、もう立ち直ってたんでしょ?」

「……そう、かもしれない」

「じゃあ、私とは違うじゃん」

(違う……。こんな風に言いたいわけじゃない)


輝先輩の進路が決まっていないことは、本当に心配だった。
心から、彼の受験が上手くいくことを願っていた。


それも本心なのに、過去と今の感情がちぐはぐになっていく。


「先輩……本当は、私の気持ちなんてわかってくれてなかったんじゃないの……?」

「え……?」


止まらない涙ごと怒りをぶつければ、輝先輩の顔が強張った。
その直後、私は足を踏み出した。


「美波!」


私を呼ぶ彼を見ないまま、咄嗟にこの場を離れる。
走れないけれど、それでも必死に足を動かした。


(なんで……? なんで、まだ傷ついてるふりなんてしたの……?)


癒されていった日々が、まるで偽物みたいに思えてしまう。
くだらないやり取りも、ふざけ合ったことも、笑い合っていたことも……。今は、全部がうそだったように感じてしまう。


裏切りとは違う。
きっと、輝先輩はそういうつもりじゃなかったんだと思う。


それでも、グチャグチャの心の中に広がっていくのは、虚しさと悲しみばかり。
彼に渡すつもりだったお守りの入った袋を落としたことに気づいたのは、電車に飛び乗ったあとのことだった。