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秋が深まる十一月中旬の土曜日。


久しぶりに、学校以外で輝先輩と会えることになった。
彼の家には十五時まで家庭教師が来ていたから、私は初めてひとりで足を運んだ。


「先輩、髪……!」

「うん、昨日の夜に染めた」


インターホンを押すと出てきた輝先輩の髪は、真っ黒になっていた。
明るい金色なんて見る影もない。


かっこいいけれど、少しだけ残念な気持ちにもなった。
彼の部屋に行っても、なんだか落ち着かない。


緊張とは別に、奇妙な気分になった。
もしかしたら、髪色だけ見ていると輝先輩じゃないみたいだからかもしれない。


「なんか変な感じ。先輩じゃないみたい」

「俺もそう思う。先生にもちょっとびっくりされたし」


家庭教師も髪の色を戻すように言っていたのに、いざ黒髪になった彼を見ると一瞬驚いていたのだとか。
その気持ちがよくわかる。


「金色から真っ黒だもんね」

「まぁな」

「優等生みたい」

「優等生だよ」

「金髪だったのに?」

「そう。真面目な金髪だったからな」

「自分で真面目とか言う?」

「本当のことだろ」


冗談を言い合って、クスクスと笑って。

(あ、やっぱり先輩だ)

いつもと変わらない雰囲気が楽しくて、同時にホッとした。