「私もそうだったから気持ちがわかるの。だから、やっぱり訊きづらくて……」

「そっか」


彼も私も、お互いの傷には触れない。
前に一度、少しだけ話をしたけれど……。輝先輩が選手としてはもう走れない、ということしか知らないままだった。


「先輩からは話そうとはしない感じ?」

「うん」

「じゃあ、訊きづらいね。訊いても怒ったりはしないだろうけど……」

「でも、きっとプレッシャーとかになるじゃん? 私も、水泳のことは訊かれたくなかったし、今でも訊かれたくないし……。そういうのが全部わかるから、やっぱり話しにくいよ」


もし彼が話してくれるのなら、私は喜んで聞く。
輝先輩のことなら知りたいし、彼が話したいと思ってくれるのなら嬉しいから。


だけど、きっと今はまだそうじゃないんだ。
私が輝先輩にすべてを打ち明けられていないように、彼もたぶんまだ話す覚悟がないんだと思う。


「待つの?」

「……うん、そのつもり」

「偉いね、美波」

「そんなことないよ。本当は早く知りたいもん。でも、触れられたくない気持ちは誰よりもわかるつもりだから……」

「そっかぁ」


真菜は息を深く吐くと、にっこりと笑った。


「早く話してくれるといいね」

「うん」

(そうだよ、先輩。私はちゃんと聞かせてほしいんだよ)


寂しい気持ちを流し込むように、フラペチーノを飲み干した。