輝先輩はブランコからひょいっと下りると、クスクスと笑う私を振り返りながら言い、スニーカーを取りに行った。


「ケンケンして靴取りに行くのって、なんかダサいね」

「言うな。自分でも思ったけど、あえて言わなかったのに」


こんなくだらないやり取りすら楽しくて、また笑ってしまう。
喧騒のない小さな公園には、私たちの楽しげな声が響いた。


スニーカーを履いて戻ってきた彼と顔を合わせると、またどちらからともなく噴き出してしまった。
くだらなすぎて、きっと他の誰も笑ったりしない。


そんなことでも、輝先輩となら笑顔になる。
お腹を抱えていた私に、ふと影がかかった。


顔を上げると、輝先輩が目の前に立っていた。
どうしたの? と訊こうとした声が喉で止まる。


視線が交わった彼の目があまりにも真っ直ぐで、言葉が出てこなかった。


じっと見つめられたまま、うそみたいな静寂に包まれていく。
なにかを求めるような瞳に心ごと捕らわれて、息をするだけでも胸が苦しくなる。


「先輩……?」


鼓動が速まっていることに気づいた時には、それだけ言うのが精一杯だった。