「一年の時は練習漬け、二年ではリハビリばっかりで、それどころじゃなかったし。告白は何度かされたけど、彼女にした子はいない」

「本当に?」

「俺の初めての彼女は美波だよ」


目を真ん丸にする私に、輝先輩は不本意そうな顔をしている。


「クソッ……。かっこわりぃ……」

「なんで……?」

「好きな子の前でくらい、かっこつけたいだろ」


拗ねたような顔をする彼が、なんだかとても可愛く見えてしまう。
思わず噴き出せば、輝先輩に鼻をキュッと摘ままれた。


「うっ……」


私が顔をしかめると、彼がケラケラと笑う。


鼻を摘ままれていた手を押し返すようにして、これみよがしに唇を尖らせた。


「バカ」

「……先輩だって似たようなものでしょ」

「そんな生意気なこと言ってると、水族館に連れて行ってやらねーからな」

「それはずるい……!」


課題が全部終わったら、水族館に行こうと約束している。
私が今一番行きたい場所だった。


「じゃあ、真面目に課題やるぞ。夏休みもあとちょっとだし、サボって時間をムダにするのはもったいないからな」

「うん」


水族館デートは、なんとしてでも叶えたい。
そんな気持ちをぶつけるように、とにかく雑念を押し込めて課題と睨めっこをしていた。