コーチは、インターハイとオリンピック出場経験を持つ女性に依頼していて、部内からはほぼ毎年インターハイに出場する生徒がいる。
昨夏のインターハイには私も出場し、五〇メートルのバタフライで二位に入賞した。


その時に喜びよりも悔しさが大きかった私の目標は、『来年は優勝』だった。
一年後の自分が水の中に入ってすらいない、なんて想像もせずに……。


家にあるメダルは、少し前にクローゼットの奥にしまいこんだ。
今はもう、視界に入ることもない。


リビングにたくさんあったトロフィーや盾、賞状も、すべて母がどこかに片付けてしまっている。
水泳一色だったはずの我が家なのに、家族の口からは〝水泳〟という単語すら出ることはなくなり、テレビで水泳選手が映るとすぐにチャンネルを替える始末。


不自然なほどに、水泳に関わるすべてを遠ざけていた。
だけど、そうでもしなければ、私の涙が止まることはなかったかもしれない。


今も決して泣かなくなったわけじゃないものの、こうして普通に学校に来られるようになった。
少し前までは保健室登校していたくらいには、教室に入ることすら怖かった。


だから、甘いと思われるかもしれないけれど、私にとってはこれだけでも大きな進歩だ。