常田と会った翌日、月野から連絡が入った。
いつもの場所に集合してください。
それだけでどこが集合場所か分かる程度には、僕はもう月野と出かけている。指定された場所に向かうと、既に彼女が待っていた。
今日は珍しく午前中から呼び出しがかかり、起きるのに一苦労した。月野は春日の心地よい日差しに照らされながら、ピアニッシモを咥えていた。相変わらず、煙草を持っている姿は美しい。でも、結局激しく咳き込んでしまった。
「いい加減やめたら?」
「私の勝手です」不愉快そうに言ってから、彼女はノートを開いた。
「今日はこれをやります」
そこには[隕石の跡地でお酒を飲みたい]書かれている。相変わらず願望が書かれていた。そのことについて月野に尋ねてみたが、私に聞かれても分かりませんと一蹴されただけだ。
これまた突拍子もない指令が来たものだと、僕は項垂れた。
「では、まずはコンビニに向かいましょう」
すたすたと歩いて行く月野の背中を見て、思った。
彼女の話していたことがどこまで本当なのかは分からない。本当にこの世界を壊せるのか、壊せないのか、それすら今の僕にはあやふやだ。
でも、これが茶番だとしても、もう少し彼女に付き合うのも悪くないと思い始めていた。それがどこから生まれた感情なのかは知りたくなかった。彼女が虐待されているから同情しているのかもしれないし、彼女が弱みを見せてくれたことで僕自身が心を許し始めたのかもしれない。
そんなことを考えながら、僕は彼女の後を追っていった。
僕達はコンビニエンスストアで大量の酒とシャボン玉セットを二つ買うことにした。なんとも異色な組み合わせだったが仕方ない。コンビニ内を物色していた月野が、物欲しそうな目でシャボン玉を見ていたのだ。
僕がシャボン玉をカゴの中に入れる時、月野が「あれ、サンタさんシャボン玉なんてやりたいんですか? ガキくさいですね」と煽ってきたが、心の中でそっくりそのままお返ししてやった。
カゴをレジに持っていって、料金を払う。その時、僕はできるだけ店員を見ないようにしている。僕は会計や注文など、店員とやり取りする時間が苦手だ。
この世界には二種類の人間がいる。労働を与えられた者と、僕達のように労働を与えられていない者。
僕達のように労働を与えられていない者には、生活に困らないだけの金が定期的に送られてくる。
どちらの人間が幸せなのか、それは分からない。労働を与えられていない者の中にも、働きたいと言って労働する人が一定数いるらしい。僕の友人の、画家になった男もその一例だろう。
だが、最初から労働を与えられていた者とそうでない者とを見極めるのは案外簡単な作業だ。
僕はちらりと視線を上に上げて、レジに立つ女性店員を見る。
彼女は目と口を弓のように細く曲げ、貼り付けたような笑みを浮かべている。僕が店内に入ってから、彼女は一歩も動いていない。
笑うことをプログラムされたような、笑顔という記号のような、笑うことしか知らないような、そんな笑みにも見える。それでも、幸せですというオーラを全身から放ちながら、業務に当たっている。そんな彼らを見ていると、人間というよりはロボットの相手をしている感覚になる。僕達とは全く異なる存在なのだと、心のどこかで思っていた。
会計を終えてから外に出て、僕は目を細めた。この世界は、僕らに優しくない。
「かーねーしょんを、ひとつください」
花屋の前で、五歳くらいの少女が二人、そう言っていた。彼女らは背伸びをして、握りしめていた硬貨を女性店員に渡している。
月野はそんな彼らを見て、一瞬だけ固まった。それからすぐに「行きましょう」と呟いて足速にその場を去って行った。その光景は、月野の瞳にどう写ったのだろう。
いつもの場所に集合してください。
それだけでどこが集合場所か分かる程度には、僕はもう月野と出かけている。指定された場所に向かうと、既に彼女が待っていた。
今日は珍しく午前中から呼び出しがかかり、起きるのに一苦労した。月野は春日の心地よい日差しに照らされながら、ピアニッシモを咥えていた。相変わらず、煙草を持っている姿は美しい。でも、結局激しく咳き込んでしまった。
「いい加減やめたら?」
「私の勝手です」不愉快そうに言ってから、彼女はノートを開いた。
「今日はこれをやります」
そこには[隕石の跡地でお酒を飲みたい]書かれている。相変わらず願望が書かれていた。そのことについて月野に尋ねてみたが、私に聞かれても分かりませんと一蹴されただけだ。
これまた突拍子もない指令が来たものだと、僕は項垂れた。
「では、まずはコンビニに向かいましょう」
すたすたと歩いて行く月野の背中を見て、思った。
彼女の話していたことがどこまで本当なのかは分からない。本当にこの世界を壊せるのか、壊せないのか、それすら今の僕にはあやふやだ。
でも、これが茶番だとしても、もう少し彼女に付き合うのも悪くないと思い始めていた。それがどこから生まれた感情なのかは知りたくなかった。彼女が虐待されているから同情しているのかもしれないし、彼女が弱みを見せてくれたことで僕自身が心を許し始めたのかもしれない。
そんなことを考えながら、僕は彼女の後を追っていった。
僕達はコンビニエンスストアで大量の酒とシャボン玉セットを二つ買うことにした。なんとも異色な組み合わせだったが仕方ない。コンビニ内を物色していた月野が、物欲しそうな目でシャボン玉を見ていたのだ。
僕がシャボン玉をカゴの中に入れる時、月野が「あれ、サンタさんシャボン玉なんてやりたいんですか? ガキくさいですね」と煽ってきたが、心の中でそっくりそのままお返ししてやった。
カゴをレジに持っていって、料金を払う。その時、僕はできるだけ店員を見ないようにしている。僕は会計や注文など、店員とやり取りする時間が苦手だ。
この世界には二種類の人間がいる。労働を与えられた者と、僕達のように労働を与えられていない者。
僕達のように労働を与えられていない者には、生活に困らないだけの金が定期的に送られてくる。
どちらの人間が幸せなのか、それは分からない。労働を与えられていない者の中にも、働きたいと言って労働する人が一定数いるらしい。僕の友人の、画家になった男もその一例だろう。
だが、最初から労働を与えられていた者とそうでない者とを見極めるのは案外簡単な作業だ。
僕はちらりと視線を上に上げて、レジに立つ女性店員を見る。
彼女は目と口を弓のように細く曲げ、貼り付けたような笑みを浮かべている。僕が店内に入ってから、彼女は一歩も動いていない。
笑うことをプログラムされたような、笑顔という記号のような、笑うことしか知らないような、そんな笑みにも見える。それでも、幸せですというオーラを全身から放ちながら、業務に当たっている。そんな彼らを見ていると、人間というよりはロボットの相手をしている感覚になる。僕達とは全く異なる存在なのだと、心のどこかで思っていた。
会計を終えてから外に出て、僕は目を細めた。この世界は、僕らに優しくない。
「かーねーしょんを、ひとつください」
花屋の前で、五歳くらいの少女が二人、そう言っていた。彼女らは背伸びをして、握りしめていた硬貨を女性店員に渡している。
月野はそんな彼らを見て、一瞬だけ固まった。それからすぐに「行きましょう」と呟いて足速にその場を去って行った。その光景は、月野の瞳にどう写ったのだろう。