泰吉の言うとおり、五百年以上も前、伊世がまだ健在の頃に、他所の土地の祭りに出かけたことが幾度かある。伊世は人好きで、楽しいことには目がなく、とりわけ祭りが好きだった。

 年に一度、自身の治める神無司山の麓で年に一度行われる祭りを見るだけでは飽き足らず、人に化けて各地の祭りを遊び歩いた。人に優しいだけではなく、奔放なところのある妹のことが心配で、烏月も何度か他所の土地の祭りに付き添った。

 規模が大きく派手な祭りもあれば、その土地の人で神に舞を捧げるだけの小さな祭りもあった。どの祭りでも人々が信仰する神様への想いが感じられ、興味深くおもしろかった。

 けれど、そんなことができたのは、伊世がともにいたからであったし、烏月もまだ人々の信仰の心を信じていたからでもある。

「烏月様が由椰様の魂を輪廻の流れに還したいと思っておられるなら、連れて行ってさしあげてはどうですか? 祭りには、お母様との思い出もあるようでしたし」
「泰吉、お前はいったい誰の従者だ。今回は、そうやすやすとお前の口車にのったりしないぞ」
「もちろん、烏月様の従者です」

 呆れ顔の烏月に、泰吉がにっこりと笑ってみせる。烏月は無言で肩をすくめると、今度こそ泰吉との会話をやめて炊事場を出た。