神無司山の洞窟に生贄として捧げられたあと、三百年も変わらない姿で眠っていた不思議な娘だ。
金色と青、左右で色違いの目をした由椰からは、ほんの少しだけ伊世の気配を感じる。由椰がどこかで伊世の加護を受けていることはたしかなはずだ。
伊世の加護を受けているせいかはわからないが、由椰が祠の前で祈りを捧げると、ふつうの人間ひとりではありえないような大きな力が体に入り込んでくる。
由椰の祈りは、何百年かぶりに、烏月に喜びを与えていた。
「由椰様の祈りを受け取られているときの烏月様は、とても優しい顔をされますね」
胸に手をあてて、祠から送られてくる由椰の気を感じていると、泰吉がふっと笑う。
何百年も外の者を遠ざけておいて、由椰が祠を大切にしてくれることを喜んでいるなんて……。泰吉に見透かされているのが少し悔しい。
「誰からの祈りを受けようが、おれは変わらない」
「そうでしょうか」
「おれはそろそろ部屋に戻る」
烏月が泰吉との会話を切り上げて立ち上がる。