人のために尽くしてきた伊世は、人が外の国から持ち込んできた神に信仰を奪われて力を失ってしまった。何百年何千年と、山と麓の土地の人を守り、加護を与えてきたというのに、人への信頼は簡単に裏切られてしまう。人など守っても意味はない。
人のために尽くしてもどうせ消えてしまうなら、無駄なことなどせずに、消えてしまうときを静かに待てばいい。
伊世が消えて、人に対しての信頼を失った烏月は、大鳥居を境に結界を張り、外部の者を避け、祠に触れられることを拒否してきた。
烏月の力が消えることを懸念した泰吉が、この三百年ほどのあいだ、人里のものをせっせと運んできては祠に備えていたが、その効果は微々たるもの。長い年月をかけて、烏月の土地神としての力は徐々に失われつつある。
ここ数年は、烏月自身も本気で神としての力の衰えを感じていた。
(いつ消えてしまってもおかしくはない……)
そう思っていたところに、泰吉と風夜が人間の娘を連れてきた。