「それは、烏月様も同じでは?」
「お前も随分生意気になったな」

 含みのある言い方をする泰吉を少し睨むと、

「もう、子狸ではありませんので」

 泰吉が笑って返してくる。

 信頼していると同時に、ときに平気で憎らしいことを言う従者の態度に息を吐く。

 そのとき、烏月の胸に温かな気がふっと入り込んできた。祠に掃除に行くとぼたもちを持って出た由椰が、祈りを捧げてくれているらしい。

 祠は、烏月自身と通じている。だから、人が祠を丁寧に扱ってもらったり、供物を捧げてもらえると、その想いが烏月に届く。祠に供物を捧げてくれる人や祈りを捧げてくれる人の気が烏月の身体に入り込んで、山の神様としての力を強くしてくれるのだ。

 祠に供物や祈りを捧げる人が多ければ多いほど、烏月の身体に入ってくる気の力も大きくなる。

 何百年も昔は、人々に供物や祈りを捧げられることが烏月の喜びでもあった。だが、双子の妹、伊世が消え、土地神を信仰するものが減ってからは、そういう喜びを感じることもなくなった。