「可愛らしい方ですね」

 烏月が、突然に頬を染めて炊事場から出て行った由椰の背中を見ていると、泰吉が悪戯っぽく笑った。

「なにがだ?」
「由椰様ですよ。このままずっと、屋敷にいてくださるといいですね」

 もう何個目になるのかわからないぼたもちに手を伸ばしながら言う泰吉に、烏月がわずかに眉を寄せる。

「そういうわけにもいかないだろう。あれは、いつか人の世に戻さなければいけない」
「それは、絶対ですか?」
「絶対だ」
「そうなってしまうと淋しいですね」
「淋しいなどと思うのが、そもそも間違っている。風音はともかく、お前も風夜も由椰に懐柔されすぎだ」
「仕方ないですよ。由椰様の料理は美味いので。それに、伊世様を思わせる色違いの瞳で見つめられると、あの方の願いをなんでも聞き入れてしまいたくなります」

 ぼたもちを食べながら話す泰吉を烏月が呆れ顔で見つめる。

「由椰は今は幽世にいるが、現世に戻って新しい生を与えられることこそ、人の正しい在り方だ。あまり懐けば、消えたときに痛い目をみるぞ」
「……」

 なにか思いあたることがあるのか、泰吉がふと動きを止めて黙り込む。だがしばらくして、琥珀色の瞳をふっと細めた。