屋敷の外に出ると、今日も穏やかに晴れた空が由椰を出迎えてくれた。青く澄んだ空を見ると、ようやく由椰の心も落ち着いてくる。

 風音とともに祠を拭き、ぼたもちを捧げると、由椰は烏月への感謝を込めて手を合わせた。

(今日も、私をここへ置いてくださりありがとうございます……)

 目を閉じて祈る由椰の耳に、ドン、ドン……と、和太鼓の音が遠く聞こえる。この屋敷の敷地内には、音ですら、外部のものは入ってこない。それなのに聞こえてくる空耳を、由椰は不思議に思う。

(もしかして、私は人の世への未練を思い出しつつあるのでしょうか……)

 鼓膜の中で響く和太鼓の音。それを感じつつ、由椰は烏月の優しいまなざしを思い出して、きゅっとせつない気持ちになった。