由椰が不安顔で小上がりに腰をおろすと、烏月が振り向いた。

「心配しなくてもいい。こちらから何もしなければ、向こうも何もしてこないだろう」

 烏月が金色の目をわずかに細める。思いがけず、やさしいまなざしを向けられて、由椰は自分の心が読まれてしまったのかとどぎまぎとした。

 大鳥居の外から連れ戻されて以来、ごくたまにだが、烏月は由椰のことを優しい目で見てくるようになった。

 初めて出会ったときは、その表情から、いっさいの感情の読み取ることのできなかった烏月。

 他を寄せ付けない、孤高の神様然とした烏月は美しいが、由椰は自分を優しく見つめてくれるときの、少し人間味のある烏月のことも好ましく思う。

「もし放浪あやかしどもが何か悪さをしてくるようなことがあっても、由椰様のことは烏月様がお守りするのでご安心くださいね」

 烏月と見つめ合う由椰が、ほんのりと頬を染めていると、泰吉が烏月の肩越しに身を乗り出してニヤリとした。

 泰吉に言われて、由椰はふいに大鳥居の外で烏月が銀髪のあやかしから救ってくれたときのこと思い出す。あの瞬間は、ただただおそろしいばかりだったが、よく考えてみれば、誰かに守ってもらったのはあれが初めてだった。