「お味はいかがですか?」

(烏月様に気に入っていただけたでしょうか……)

 ドキドキしながら尋ねると、烏月が由椰を見てゆっくりとうなずく。

「美味いな。ずっと昔に食った、神無山の供物のぼたもちがいちばんうまかったと記憶していたが、これはその味によく似ている。甘さがちょうどよく、いくらでも食えそうだ」

 烏月がそう言って、ふたつめのぼたもちに手を伸ばす。

 どうやら、由椰の作ったぼたもちは烏月に気に入ってもらえたらしい。わざわざ人里まで出向いて、材料を仕入れてきた甲斐がある。

「ところで泰吉、山の様子はどうだった?」

 ふたつ、みっつとぼたもちを味わってから、烏月が少し神妙な顔付きで泰吉に訊ねる。

「二神山と神無山をひととおり回ってきましたが、オレの担当範囲に関しては、前回と比べて目立った変化はなさそうです。ただ……、風夜の担当範囲のほうは——」
「山の北側が野狐に荒らされているな」

「そうなのです。うっかり野狐の住処に足を踏み入れてしまい、『ここはオレの縄張りだ』と牙を剝かれました。このまま放置を続けると、野狐の行動範囲が広くなり、山に枯れ野が増えるかもしれません」
「あの野狐はやっかいだな。凶暴なうえに、まともに話が通じない。数ヶ月前に山に入ってきたあと、すぐに出て行くかと思ったが……。このまま居座るつもりなのかもしれない」

 烏月たちの話を聞いて、由椰は、ふと大鳥居の外で襲いかかってきた、三尾の銀髪のあやかしを思い出した。

 由椰を助けてくれたとき、烏月が銀髪の男のことを「野狐」と呼んでいた気がする。

 あのあやかしが、烏月の山に何かよくない影響を与えているのだろうか。