「人里なら、この前行ったばかりでは……?」
「あのときは人里に用事などなかったと思いますが、今日は本当に人里の偵察に行っています。明日から一週間、二神山の麓の町で、随分と前に外から持ち込まれた神様の誕生を祝う祭りがあるんです。もう四百年も続いているという人の世では歴史のある祭りで、町の外からも見物客がたくさんの人が集まるんですけど……。その余興に紛れて、よその土地から凶悪なあやかし達も入ってきます。だから、事前に偵察をして、あやかし達の出入りしそうな場所をあらかじめ塞いでおくんです。風夜はしばらく、そっちにかかりっきりかと……。おそらく今日は、ここへは来ませんよ」 

「そうでしたか……。では、ぼたもちは召し上がっていただけませんね。その祭りのお務めが終わる頃に作ればよかったです」
「鴉にぼたもちを食わせる必要ないですよ。オレがたくさんいただきます」

 そう言って泰吉が次のぼたもちを手に取る。

「たくさん召し上がっていただいて構いませんけど……。烏月様の分も考えてくださいね。風夜さんの分は……、風音さんに届けてもらうことなどできますか?」
「もちろんです。兄も喜びます」

 風音がそう言うので、由椰は風夜の分を用意するために立ち上がった。ぼたもちを詰めた重箱を風呂敷に包んでいる途中、風に紛れて何か音が聞こえてきたような気がして、ふと手を止める。