「それにしても、二神山の北側はふだん風夜に任せているから勝手がわからないな。野狐の住処に足を踏み入れて、危うく噛み付かれるところだった」
「それは危なかったですね……。山の北側は特に荒れているので、兄も必ず空から見回るようにしていると言ってましたよ」
「それは初耳なんだが……」
「そうでしたか……。それは申し訳ありません」
「あの鴉……。いつか羽根をむしり取ってやる……」
よほど嫌な目にあったのか、三つ目のぼたもちを噛みちぎりながら、泰吉がぶつぶつと文句を言う。
「今日は、風夜さんはどちらに?」
泰吉や風音の話を聞く限り、風夜にはなにか別の務めで出かけているのだろう。
由椰が尋ねると、
「人里ですよ」
と、泰吉が不機嫌そうな顔で口をもごもごさせた。