烏月にしては騒がしいなと思い、由椰が首を傾げると、狸姿の泰吉が炊事場に転がり込んでくる。

 無言で小上がりに乗った泰吉が、仰向けに倒れる。その態勢のまま、泰吉がぽんっと人型に変化した。

「おかえりなさい、泰吉さん」

 由椰が冷たい水を手渡すと、起き上がった泰吉がそれを一気に飲み干して息を吐いた。

「ありがとうございます」
「泰吉さん、随分とお疲れですね」

 由椰が小上がりに腰をかけると、泰吉がちょっと苦笑いする。

「どちらへ行かれていたんですか?」
「今日は、烏月様の命で、二神山の見回りをしてきました」
「見回り?」

「はい。月に数回、烏月様が泉を通して山の様子を見ておられるんですが、近頃は山の気が乱れているので……。オレたちの足を使った見回りも増やしているのです。由椰様のことを見つけられたのも、その見回りのときですよ」
「そうだったのですね」

 由椰も、烏月が泉で山の様子を見ていたところには一度だけ出くわしたことがある。

 そのときもたしか、烏月が風音に「山の気が乱れている」という話をしていた。