お腹いっぱい昼食を食べると、泰吉は由椰をこの前烏月の屋敷で食べた「ケーキ」の食べられるところへと案内してくれた。
店の中のガラスケースに飾られたケーキはどれもとても綺麗で、見ているだけで心が踊る。泰吉の勧めてくれた紅茶と共に味わうケーキは格別に美味しくて、由椰を幸せな気持ちにさせてくれた。
人里に用事があると言っていた風夜は、無表情であまり喋らなかったが、結局一度も由椰たちのそばを離れることはなかった。
泰吉が言うように、風夜は由椰のお供をするためだけに人里に降りてきたらしい。
「泰吉さん、風夜さん、今日はほんとうにありがとうございます」
ケーキを食べてから店を出ると、由椰は一日付き添ってくれたふたりに丁寧に頭を下げた。
人里での買い物や食事はとても楽しく、由椰の人生で、これ以上に楽しかった日はないと思う。
「由椰様に楽しんでいただけてよかったです。また、一緒に来れたらいいですね」
「はい。人里へ降りる許可を与えてくださった烏月様にも感謝しなければいけません。いつか、烏月様ともご一緒できたら嬉しいのですが……」
由椰が烏月のことを思いながらつぶやくと、
「それは……、どうでしょうね……」
と、泰吉が言葉を濁して苦笑いした。
「では、そろそろ帰りましょうか。日が暮れるまでに二神山に戻らなくては、さすがにオレも風夜も烏月様に叱られます」
「そうですね。烏月様も、お二人の帰りをお待ちですよね」
由椰が真顔で頷くと、泰吉がククッと笑う。